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思い出の香りで眠ると、夢は楽しくなる? ― 20人が「好きな香り」を自分で選び、睡眠ラボで一晩中流した研究

細いペンの線画に、ごく淡い水彩で色をつけたやさしいイラスト。月と星の見える窓のある寝室で、アイマスクをした女性がふとんに入り、ほほえみながら眠っている。枕元の台には小さなアロマディフューザーがあり、そこから淡い香りの流れが部屋に広がっている。その流れに沿って、海辺で笑い合う二人、犬を抱く人、草の上でピクニックをする友だち、山の向こうの朝日と鳥など、楽しい思い出の情景が浮かんでいる。上部に記事の題名「思い出の香りで眠ると、夢は楽しくなる? ― 20人が「好きな香り」を自分で選び、睡眠ラボで一晩中流した研究」。
イメージイラスト(AI生成)

前回は、眠る前の寝室にダージリン紅茶の香りを流した日本の研究を読みました。その前の139人が鼻クリップで香りをかぎながら眠った研究では、眠りにかかわるのは香りの種類よりも、「本人がその香りを心地よいと感じるかどうか」ではないか、という見方が出ていました。

では、ただ「いい香り」なのではなく、自分にとって特別な思い出につながる香りならどうでしょうか。母親が用意してくれたお風呂の泡の香り、子どものころの旅行で泊まったホテルの部屋の香り。そんな香りに包まれて眠ったら、夢が楽しくなったり、目覚めの気分がよくなったりするのではないか。今回は、それを睡眠検査の部屋で確かめたチェコの研究です。

先に結果を言うと、はっきりした違いは見られませんでした。ただ、その「違いがなかった」という結果からも、香りとのつきあい方について考えられることがあります。

この論文について

  • 論文:Nocturnal exposure to a preferred ambient scent does not affect dream emotionality or post-sleep core affect valence in young adults(好みの香りを一晩中部屋に流しても、若い大人の夢の感情や、眠ったあとの気分の快さは変わらない)
  • 著者:Lenka Martinec Nováková、Eva Miletínová、Monika Kliková、Jitka Bušková
  • 所属(論文の記載):プラハ化学技術大学 化学教育・人文学科、チェコ国立精神保健研究所、カレル大学 第3医学部
  • 掲載:Scientific Reports 14巻(2024年5月)。査読を経て掲載された論文で、誰でも全文を読めます。
  • 研究の体制:試験は、チェコ国立精神保健研究所の睡眠医学の部門にある睡眠検査室で、2018年9月から2019年3月にかけて行われました。研究の資金はプラハ化学技術大学から出ていて、論文には「利益相反はない」と書かれています。研究所の倫理審査委員会の承認を受けています。

どうやって調べたのか

参加者

20〜35歳の健康な大人 20人(男性12人・女性8人、平均25歳)です。においの感じ方や眠りに影響する病気・薬がないこと、気分の落ち込みや不安が強くないことなどを、質問票と医師の診察で確かめてから参加してもらっています。においをかぎ分ける力の検査(UPSIT)も行いました。

香りの選び方

1回目の夜、参加者は箱に入った40種類のルームフレグランスのカートリッジを、一つずつかいでいきます。どれも市販品で、パッケージに入ったまま、商品名や香りの説明も見られるようにしてありました。お店で香りを選ぶときに近い形です。

参加者への説明は、おおよそ次のようなものでした。

40種類をすべてかいでから、特定の人や場所、出来事、時期などの、強くて楽しい思い出を呼び起こす香りを一つ選んでください。一つに絞れなければ、いちばん気持ちが動いたものを。どれも思い出につながらなければ、自分の寝室に流してもいいと思えるくらい心地よいものを。

時間は4時間ほどあり、自分のペースで選んでもらっています。20人が選んだ香りは14種類で、同じ香りを選んだ人もいました。論文には、選んだ香りから思い浮かんだことが載っています。

  • ラベンダーの香り:小さいころに母親が用意してくれた泡風呂と、きょうだいとのお風呂遊び
  • レモンとミントの香り:11歳のときにオーストラリアで1か月過ごした休暇の、ホテルの部屋の香り
  • 海とかんきつ類の香り:シャワーを浴びたばかりの恋人
  • 地中海のラベンダー畑、海辺で友だちと飲んだラベンダーのレモネード
  • わたあめ、お祭り、子どものころ
  • 高校の同級生からクリスマスに贈られ、ダンス教室や卒業パーティーのときだけつけた香水。「甘い切なさ」と、なつかしさ

進め方

  1. 参加者は1週間おきに、同じ曜日に3回、睡眠検査室に泊まります。1回目は部屋に慣れるための夜で、記録は解析に使いません。初めての場所では眠りが乱れやすい(「第一夜効果」と呼ばれます)ためです。
  2. 2回目と3回目のどちらかが香りの夜、もう一方が香りのない夜です。どちらを先にするかは、人によってくじで決めました。
  3. 香りは、ベッドの下、頭のほうに置いた家庭用のアロマディフューザー(イタリアの Mr & Mrs Fragrance の「Otello」)で、夜10時から朝7時すぎまで、部屋に流し続けました。熱や湯気、振動が出ず、ノートパソコンのファンくらいの小さな音がするだけのものです。香りのない夜も、カートリッジを入れずに同じディフューザーを動かしています。音で区別がつかないようにするためです。
  4. 夜10時に消灯し、眠っている間の脳波などを記録します(睡眠ポリグラフ検査)。
  5. 午前2時30分を過ぎてから、研究者が脳波を見てレム睡眠を探します。夢を見ていることが多い眠りの段階です。レム睡眠が5分続いたところで、肩をたたくか名前を呼んで参加者を起こし、その場で用紙に答えてもらいます。
    • 夢を見ていたか。見ていたなら、その夢がどのくらい心地よかったか、どのくらい感情が動いたか(どちらも1〜7点)
    • 夢の中のよい感情(喜び、愛情、満ち足りた気持ち、わくわく)と、イヤな感情(怒り、不安や恐れ、悲しみ、混乱)がどのくらいあったか(それぞれ1〜7点)
    • いまの気分が「満足している—不満」「うれしい—悲しい」「幸せ—落ち込んでいる」のどちら寄りか(3つの合計で3〜27点。高いほど快い気分)
    • 部屋で何かにおいに気づいたか

この研究のよいところ

  • 香りを本人に選んでもらっている:香りの研究の多くは、研究者が決めた「一般にいい香り」を使います。この研究では、香りの好みは人によって大きく違うことを重く見て、本人にとって特別な意味のある香りを選んでもらっています。論文によると、こうした研究はまだ少ないそうです。
  • 同じ人で、香りの夜と香りのない夜を比べている:一人ひとりが両方を体験し、順番はくじで決めています。
  • 慣れるための夜を設けている:初めて泊まる夜の眠りの乱れが、結果に混ざらないようにしています。
  • 香りのない夜もディフューザーを動かしている:装置の音や、「何か置いてある」という気配は、どちらの夜も同じです。
  • 家に近い使い方をしている:短い時間だけ香りを当てるのではなく、市販のディフューザーで一晩中流しています。家で香りを使うときの状況にできるだけ近づけるためです。
  • 夢を見ていた直後に聞いている:朝まで待たず、レム睡眠の途中で起こしてその場で答えてもらっているので、夢の記憶が新しいうちに聞けています。
  • 事前に必要な人数を計算している:前の研究の結果から、差を見つけるのに必要な人数を、始める前に見積もっています(ただし、後で書くように、その人数には届きませんでした)。

分かったこと

1. 夢の心地よさも、目覚めの気分も、はっきりした違いはなかった

レム睡眠の途中で起こしたとき、「夢を見ていた」と答えたのは、香りの夜も香りのない夜も**75%**でした。両方の夜で夢を答えられた12人について比べた結果が、次の表です。

香りのない夜香りの夜
夢の心地よさ(1〜7点)4.474.47差なし
夢で感情が動いた度合い(1〜7点)3.404.13はっきりした差なし
夢の中のよい感情(1〜7点)3.223.58はっきりした差なし
夢の中のイヤな感情(1〜7点)1.822.15はっきりした差なし
目覚めたときの気分の快さ(3〜27点。14人)16.7516.59はっきりした差なし

夢の心地よさは、平均がぴったり同じでした。数字の上では、香りの夜のほうが、夢で感情が動いた度合い、よい感情、イヤな感情がどれも少しずつ大きめでしたが、統計ではっきりした差とまでは言えず、差の大きさ(効果量)も「小さな効果」と呼ばれる目安に届きませんでした。

2. 香りに気づいたのは6割

「部屋で何かにおいに気づいたか」には、香りの夜は20人中12人(60%)、香りのない夜は**3人(15%)**が「はい」と答えました。香りの夜でも4割の人は、においに気づいていなかったことになります。気づいた人と気づかなかった人で、結果にはっきりした違いは見られませんでした(人数が少なく、詳しくは比べられていません)。

3. 補足の分析:3回目に香りの夜があった人は、イヤな夢の感情が少なかった

おまけとして行った分析では、香りの夜が3回目(最後)だった人は、2回目だった人と比べて、夢の中のイヤな感情が少なく(2.82点に対して1.56点)、目覚めたときの気分も快い方向(14.78点に対して18.63点)でした。香りのない夜では、順番による違いは見られませんでした。

また、女性は男性より、夢で感情が動いた度合いが大きいと答えていて、香りの夜の目覚めの気分も女性のほうが快い方向でした。どちらも、もともと調べる予定ではなかった比較で、それぞれのグループは数人ずつです。

著者らのまとめ

著者らは、健康な若い大人では、自分で選んだ好きな香りを眠っている間に流しても、夢の感情や目覚めの気分を高める実用的な効果はごく限られると結論づけています。

一方で、香りなど感覚に働きかける工夫そのものに価値がない、という意味ではないとも書いています。心地よい感覚を取り入れて自分をいたわることは、誰にとっても役に立ちうる。ただし香りの使い方は一人ひとりに合わせる必要があり、香りそのものは、その人がその香りに込めている意味の働きを手助けするものなのだろう、という見方です。

結果の受け止め方

  • 人数が見積もりに届かなかった:始める前の計算では、差を見つけるには20組の比較が必要でした。ところが、夢を答えられた人の割合が前の研究(83%)より低く(75%)、検査機器のトラブルもあって、比べられたのは12〜14人分にとどまりました。小さな差があっても、見つけられなかった可能性があります。
  • 40種類から一つ選ぶのは大変だった:決められた40種類の中から選んでいるので、本当にいちばん好きな香りだったとは限りません。著者らも、たくさんの香りをかぎ比べることが負担になったかもしれない、と書いています。
  • 一晩中流すと、鼻が慣れてしまう:同じにおいをかぎ続けると、だんだん感じにくくなります。夜10時から朝まで流し続けたことで、夢を見ていたころには香りを感じにくくなっていたのかもしれません。もっとも、短い時間だけ香りを当てた研究でも、香りが夢に出てくることは多くないそうで、慣れがどのくらい影響するかは、はっきりしていません。
  • 夢と香りの研究は、結果がそろっていない:論文によると、バラのような香りの夜は、いわゆるイヤなにおいの夜より夢の感情がややよかったという研究がある一方、その香りが好きな人のほうが夢の中のイヤな感情が多かった、という意外な研究もあります。今回の結果も、その中の一つとして受け止めるのがよさそうです。
  • 調べたのは「夢」と「目覚めの気分」:この論文では、寝つきや眠りの深さ、眠った時間などは報告されていません。好きな香りで眠りそのものが変わるかどうかは、この研究からは分かりません。
  • 香りがすることは、本人にも分かる:この研究では、家と同じ状況に近づけるため、あえて香りを隠していません。「好きな香りだから、いい夢が見られそう」という期待も働きうる条件ですが、それでも夢の心地よさは変わりませんでした。香りは、睡眠薬のように体に直接働いて何かを起こすものではありません。期待や、眠る前の合図としての働きも含めて、全体として眠りへ導くものだとすると、その働きは夢の中まではあまり届かなかった、と見ることもできそうです。
  • 場所と対象の範囲:家の寝室ではなく、睡眠検査の部屋で、脳波の電極をつけて眠っています。夜中に一度起こされてもいます。参加者は20〜35歳の健康な人で、眠りに悩みのある人や、ほかの年代で同じ結果になるかは分かりません。

日常で取り入れるなら

20人の結果からうかがえるのは、次のようなことです。

  • 好きな香りに「いい夢」を期待しすぎない:香りを一晩中流しても、夢の心地よさや目覚めの気分ははっきり変わりませんでした。夢を変える道具としてではなく、眠る前のくつろぎの時間を楽しむものとして使うのがよさそうです
  • 香りは、起きているうちに楽しむ:一晩中流すと、鼻が慣れて感じにくくなります。香りに気づき、楽しめるのは、布団に入って眠りにつくまでの時間です。タイマーで止まるディフューザーなら、眠ったあとまで流し続けずに済みます
  • 香りは自分で選んでかまわない:研究者が勧める香りではなく、自分が心地よいと感じる香り、思い出につながる香りを選ぶ。著者らも、香りの使い方は一人ひとりに合わせるべきだと書いています
  • 選ぶときは、少しずつ:40種類を一度にかぎ比べるのは大変だった、という反省が論文にもあります。少ない種類から、日を変えて試していくほうが選びやすいかもしれません

PR好きな香りを自分で見つけたい方には、何種類かの精油が少しずつ入ったアロマオイルのセットがあります。ラベンダー、スイートオレンジ、ユーカリなど、香りの系統の違うものが並んでいるので、かぎ比べながら自分に合う香りを探せます。ディフューザーで使うときは、お使いの機種で使えるオイルかどうかを、商品の説明で確かめてください。研究で使われた香りと同じものではありません。アロマオイルのセット ›リンク先は Amazon の検索結果です。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。

PR研究で使われたディフューザーは、水も熱も使わず、香りを空気にのせて広げるタイプでした。同じように水を使わないアロマディフューザーには、小さなファンで香りを送るものや、精油を細かな霧にして広げるネブライザー式があります。水の補充がいらず、タイマー付きのものなら、眠りにつくころに止まるよう設定できます。研究で使われたものと同じ製品ではありません。水を使わないアロマディフューザー ›リンク先は Amazon の検索結果です。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。

ここまで、香りを「心地よいもの」として届ける研究を読んできました。でも、そもそも私たちは、眠っているあいだに香りをどのくらい感じ取れているのでしょうか。次回は、眠っているあいだに、においで目が覚めるのかを確かめた研究を紹介する予定です。

好きな香りでくつろいだら、あとは静かな音にまかせて。眠りの和声では、雨音や小川の音と、やさしい和音を流せる再生画面もご用意しています。

この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。眠れない日が長く続く場合は、医療機関にご相談ください。

この研究の著者・研究室・企業

  • 研究者Lenka Martinec Nováková 博士(論文の責任著者。においの感覚と感情の研究者。論文の発表当時はプラハ化学技術大学とチェコ国立精神保健研究所に所属し、現在はアングロ・アメリカン大学 心理学科)
  • 研究室Jitka Bušková 准教授(チェコ国立精神保健研究所 睡眠医学部門。神経内科医で、試験が行われた睡眠検査室のある部門の医師)

参考文献

  1. Lenka Martinec Nováková, Eva Miletínová, Monika Kliková, Jitka Bušková. Nocturnal exposure to a preferred ambient scent does not affect dream emotionality or post-sleep core affect valence in young adults. Scientific Reports 14: 10369 (2024). doi:10.1038/s41598-024-60226-z(PMC11074142)
  2. Agnieszka Sabiniewicz, Pia Zimmermann, Guliz Akin Ozturk, Jonathan Warr, Thomas Hummel. Effects of odors on sleep quality in 139 healthy participants. Scientific Reports 12: 17165 (2022). doi:10.1038/s41598-022-21371-5(PMC9562345)

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