fortuna眠りの和声

眠る前の寝室にダージリン紅茶の香りを流したら、働く女性20人の寝つきが早まった

紺と青を基調にした夜の水彩風のイラスト。月の見える窓のある寝室で、黒髪の女性がふとんに入り、枕に頭をのせてほほえみながら眠っている。ベッド脇の木の台の上に、「DARJEELING TEA」と書かれた紅茶の缶、やわらかく光るしずく形のアロマディフューザー、紅茶の入ったカップがあり、ディフューザーから琥珀色のミストが部屋にゆっくり広がっている。上部に記事の題名「眠る前の寝室にダージリン紅茶の香りを流したら、働く女性20人の寝つきが早まった。」
イメージイラスト(AI生成)

前回は、112人が香りの届け方を選んで2週間眠った研究を読みました。鼻クリップ・枕・ディフューザーのうち、部屋に香りを広げるディフューザーのグループで、眠りの感じ方がよかったという結果でした。

今回は、同じように部屋へ香りを広げた日本の研究です。香りに選ばれたのは、精油ではなく紅茶。それも、華やかな香りで知られるダージリンの紅茶です。紅茶を眠る前に飲むと、カフェインで目がさえてしまうことがあります。そこで研究チームは、紅茶の香りだけを取り出して、寝室に流しました。

この論文は、研究を行った三井農林による紹介資料「紅茶の香りで心地よい眠りを」(PDF、2023年3月)でも紹介されています。

この論文について

  • 論文:紅茶の香りがストレス意識の高い女性の睡眠に及ぼす効果
  • 著者:大野敦子、佐久川千津子、矢田幸博
  • 所属(論文の記載):三井農林株式会社 R&D グループ、筑波大学大学院 グローバル教育院 ヒューマンバイオロジー学位プログラム
  • 掲載:日本生理人類学会誌 25巻2号(2020年5月)。査読を経て掲載された研究報告で、J-STAGE で誰でも全文を読めます。
  • 研究の体制:「日東紅茶」で知られる三井農林の研究者2人と、筑波大学の矢田幸博教授による研究です。研究チームは以前から、ダージリン紅茶の香りに気持ちを落ち着かせる働きがあるかを調べてきました。今回はその延長で、眠りへの影響を確かめています。論文には「利益相反はない」と書かれています。試験は外部の臨床試験の受託機関の倫理審査委員会で承認され、始める前に公的な臨床試験の登録システム(UMIN000031840)に登録されています。

どうやって調べたのか

参加者

週4日以上、1日3.5時間以上、日中に働いている日本人の女性 20人(平均40.0歳)です。次の条件をすべて満たす人が選ばれました。

  • ストレスのチェックリストで「ややストレスが高い」にあたる
  • ストレスが原因で眠りがよくないと感じている(寝つくまでに30分以上かかる、夜中に目が覚める、起きたときの眠気が強い、疲れが取れない)
  • 睡眠薬や市販の睡眠改善薬を使っていない
  • 紅茶の香りが苦手ではなく、においの区別ができる
  • 寝室で一人で眠れる。眠る前にスマートフォンやパソコンを使わずにいられる。お風呂は眠る1時間前までに済ませられる

流した香り

中身
紅茶の香りの夜インドのダージリン地方の紅茶の葉を熱いお湯で抽出し、その液から香りの成分だけを集めた「紅茶香気水」。カフェインやポリフェノールは含まない
比べる夜不純物を取り除いた水(イオン交換水)

どちらも、枕元から1mほど離れた場所に置いた超音波式のアロマディフューザーで、眠る1時間前から眠ったあと2時間までの3時間、約100ccを部屋に流しました。

進め方

  1. 20人を10人ずつ2つのグループに分け、紅茶の香りの1週間と水の1週間を、順番を入れ替えて続けて過ごしてもらいます(「水→紅茶」のグループと「紅茶→水」のグループ)。参加者には、何を流しているのか、どちらが先なのかは知らせていません。
  2. お風呂のとき以外は、おなかに活動量計(アコーズの「MicroTag」MTN-220)を付けて過ごします。※研究用の機器で、一般向けには販売されていません。体の動きから、寝つくまでの時間、眠っていた時間などを計算しました(各週の火・水・木の3日分を解析)。
  3. 最初の朝、入れ替えの朝、最後の朝に、3つの質問票に答えます。
    • ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI):眠りの質を7つの項目で点数にする質問票。合計0〜21点で、点が高いほど眠りがよくないことを表します
    • OSA睡眠調査票(MA版):起きたときの眠りの満足感を「起床時の眠気」「寝つきと眠りの続き」「夢」「疲れの回復」「睡眠時間」の5つで表すもの。点が高いほど満足しています(ヒノキの根の精油の研究でも使われていました)
    • ストレスのチェックリスト(30項目):当てはまる項目が多いほどストレスが高いと見ます

この研究のよいところ

  • ふだんの寝室で調べている:研究室に泊まってもらうのではなく、参加者の自宅の寝室で、いつもの生活の中で調べています。
  • 同じ人で、香りの週と水の週を比べている:一人ひとりが両方を体験するので、体質や生活の違いによるばらつきを抑えられます。順番の影響を考えて、グループごとに順番を入れ替えています。
  • 心の面と体の面の両方を見ている:質問票による本人の感じ方だけでなく、活動量計で体の動きからも眠りを測っています。
  • 紅茶の香りだけを取り出している:カフェインやポリフェノールを含まない香りの水を使い、「飲んだ紅茶の成分」ではなく「香り」の働きを見られるようにしています。
  • 日中の活動量もそろっていることを確かめている:香りの週と水の週で、歩数や運動量に差がないことを確かめ、眠りの違いが日中の過ごし方の違いによるものではなさそうだと示しています。
  • 事前に試験を登録している:何をどう調べるかを、始める前に公的なシステムに登録しています。

分かったこと

1. 寝つくまでの時間が短くなった

活動量計で見ると、寝つくまでの時間は、水の夜の平均約29分に対し、紅茶の香りの夜は約13分と、半分以下になっていました。

水の夜紅茶の香りの夜
寝つくまでの時間約29分約13分差あり
目が覚めてから起き出すまでの時間約13分約7分差あり
眠っていた時間約304分約321分はっきりした差なし
睡眠効率(床にいた時間のうち眠っていた割合)約70%約76%差あり

眠っていた時間は、紅茶の香りの夜のほうが17分ほど長かったものの、統計ではっきりした差とまでは言えませんでした。※論文では、要旨・考察と結果の2か所で総睡眠時間について書かれていますが、この記事では、結果の節の数値に従っています。

2. 眠りの質の自己評価がよくなった

PSQI の合計点は、紅茶の香りの1週間で、水の1週間より大きく下がりました(点が下がるほど眠りがよい方向です)。どちらの順番のグループでも、紅茶の香りの週には点がはっきり下がっていました。

OSA 睡眠調査票では、5つの項目のうち、20人全体ではっきり差が出たのは「睡眠時間」への満足感でした。「寝つきと眠りの続き」「起床時の眠気」「疲れの回復」は、紅茶の香りの週によい方向へ動いていましたが、はっきりした差とまでは言えませんでした。

3. ストレスの感じ方も下がる方向に

ストレスのチェックリストの点は、紅茶の香りの週に下がる方向でしたが、20人全体では、はっきりした差とまでは言えませんでした。「紅茶→水」のグループでは、紅茶の香りの週にはっきり下がっていました。

また、ストレスの点が下がった人ほど、「寝つきと眠りの続き」への満足感が上がっていた、というつながりも見られました。

著者らは、紅茶の香りが日中のストレスで高ぶった体を落ち着かせ、眠りへの切り替えをなめらかにしたのではないか、と考察しています。

結果の受け止め方

  • 順番によって、はっきりしかたが違った:「紅茶→水」のグループでは、香りをやめて水になった週に、寝つくまでの時間がはっきり延びていました。一方、「水→紅茶」のグループでは、紅茶の香りの週に寝つくまでの時間が短くなる方向でしたが、はっきりした差とまでは言えませんでした。OSA 睡眠調査票でも、「水→紅茶」のグループは、水の週に「疲れの回復」がはっきりよくなっていました。それぞれのグループは10人と少なく、順番の影響を確かめるには人数が足りなかった可能性があります。
  • 香りの週と水の週の間に、休みの期間がない:1週目から2週目へ、そのまま切り替えています。前の週の影響が次の週に残っていた可能性は否定できません。
  • 香りがするかどうかは、本人にも分かる:参加者には何を流しているか知らせていませんが、紅茶の香りがする夜と、しない夜の違いには気づけます。そのため結果には、「いい香りがするから、よく眠れそう」という期待や、香りを合図に「そろそろ眠る時間だ」と気持ちが切り替わる働きも含まれていると考えられます。香りは、睡眠薬のように体に直接働いて眠らせるものではありません。こうした心の働きも含めて、全体として眠りへ導くもの、と受け止めるのがよさそうです。
  • 質問票の期間と試験の期間の違い:PSQI は、もともと「この1か月」をふり返って答える質問票です。この研究では1週間ごとに答えてもらっています。
  • 測り方の限界:眠りの記録は、おなかに付けた活動量計の体の動きによるもので、脳波を測る検査ほど細かな変化はとらえられません。解析したのも、各週のうちの3日分です。
  • 企業が関わる研究であること:紅茶をあつかう会社の研究者が中心になった研究です。論文は利益相反はないとしていますが、読み手としてはその体制も知っておきたいところです。一方で、試験を事前に登録し、外部の倫理審査を受け、順番によっては差がはっきりしなかった結果もそのまま載せています。
  • 対象の範囲:参加者は、ストレスを感じていて眠りに不満のある、30〜40代の働く女性です。男性や、ほかの年代、眠りに悩みのない人で同じ結果になるかは、この研究からは分かりません。著者らは、今後は更年期の女性や高齢の人でも確かめたいとしています。

日常で取り入れるなら

20人の結果からうかがえるのは、次のようなことです。

  • 紅茶の香りは、飲まなくても楽しめる:カフェインが気になる夜は、紅茶を飲む代わりに、香りだけを部屋に漂わせるという楽しみ方もあります
  • 香りは、眠る少し前から:研究では、眠る1時間前から香りを流し始めていました。布団に入る前から部屋を香りで満たしておくと、寝つきの時間に香りが間に合います
  • 香りを、眠る前の合図に:期待や気持ちの切り替えも含めて眠りへ導くものだとすれば、好きな香りを毎晩の眠る前の習慣にして、「この香りがしたら眠る時間」という合図にするのもよいかもしれません
  • 一晩中でなくてもよい:香りを流したのは、眠ってから2時間までの合わせて3時間でした。タイマー付きのディフューザーなら、同じような使い方ができます

研究で使われた「紅茶香気水」は、香りの成分だけを集めた試験用のもので、市販の紅茶の香りの製品と同じではありません。家で試すなら、ダージリンの紅茶をいれて、その香りを寝室でゆっくり楽しむところから始めてみてはいかがでしょうか。飲むのは、カフェインが気にならない時間帯にしておくと安心です。※研究の香りは、紅茶の葉をお湯で抽出した液から香りの成分を集めたものです。いれた紅茶の湯気の香りで同じ結果になるかは、確かめられていません。

PR日東紅茶は、1927年に「三井紅茶」として発売された、日本で初めての国産ブランドの紅茶です(のちに「日東紅茶」へ改称)。今回の研究を行った三井農林が、いまも手がけています。ダージリンは、インド北東部のヒマラヤのふもとで育つ紅茶で、華やかな香りで知られています。研究で使われた紅茶香気水そのものではありません。日東紅茶 ダージリン ›リンク先は Amazon の検索結果です。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。

PR超音波式のアロマディフューザーは、水に香りを加え、超音波の振動で細かなミストにして部屋に広げるもの。火を使わず、熱も加えないので、寝室で使いやすいのが特徴です。切れるまでの時間を決められるタイマー付きのものなら、研究のように「眠ってしばらくしたら止まる」使い方もできます。研究で使われたものと同じ製品ではありません。超音波式アロマディフューザー ›リンク先は Amazon の検索結果です。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。

PR研究で使われた紅茶香気水は市販されていませんが、紅茶の香りを寝室で楽しみたい方には、ダージリンやアールグレイなど、紅茶の香りのアロマオイルがあります。多くは香料を調合して紅茶の香りを表したもので、研究のように茶葉から香りの成分を集めたものとは違います。ディフューザーで使うときは、お使いの機種で使えるオイルかどうかを、商品の説明で確かめてください。紅茶の香りのアロマオイル ›リンク先は Amazon の検索結果です。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。

PR研究で使われた活動量計は研究用の機器ですが、家で香りを試しながら眠りの記録をつけるなら、市販の活動量計も使えます。Fitbit Charge 6 は、毎晩の睡眠スコアと、浅い睡眠・深い睡眠・レム睡眠のグラフで、眠りの記録を残せる手首の活動量計。24時間の心拍数の測定、最大7日間のバッテリー、Google ウォレットでの Suica の支払いにも対応しています。研究で使われたものと同じ製品ではありません。Fitbit Charge 6 ›リンク先は Amazon の商品ページです。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。

ここまで、届け方や、紅茶のような身近な香りを見てきました。前々回の研究では、眠りにかかわるのは「本人がその香りを心地よいと感じるかどうか」ではないか、という見方も出ていました。次回は、その「好きな香り」に目を向けて、楽しい思い出につながる香りを自分で選び、一晩中寝室に流して眠った研究を紹介する予定です。

寝室にほのかな香りを漂わせて、耳には静かな音を。眠りの和声では、雨音や小川の音と、やさしい和音を流せる再生画面もご用意しています。

この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。眠れない日が長く続く場合は、医療機関にご相談ください。

この研究の著者・研究室・企業

上場企業の記載は研究の体制をお伝えするためのもので、投資を勧めるものではありません。

参考文献

  1. 大野敦子, 佐久川千津子, 矢田幸博. 紅茶の香りがストレス意識の高い女性の睡眠に及ぼす効果. 日本生理人類学会誌 25(2): 23–32 (2020). doi:10.20718/jjpa.25.2_23
  2. Zetian Li, Jean Christoph Gerami-Manesch, Lisa Marie Hoehnel, Jonathan Warr, Antje Haehner, Thomas Hummel. Effects of nighttime odor exposure and delivery methods on subjective sleep quality in healthy adults. Scientific Reports (2025). doi:10.1038/s41598-025-18075-x

← コラムの一覧へ