ヒノキの根から採った精油の香りで、12人の女性が自宅で2週間ずつ眠ってみた結果
この論文は、カラパイア「寝る前にヒノキの根の香りを嗅ぐと、睡眠の質が上がるとする研究結果(日本)」(2026年9月29日)と、KSB瀬戸内海放送「香川県産ヒノキの根から採ったオイルの香り 睡眠時のデルタ波が増加 女性の自宅実験で 九州大と高松の住宅メーカーが発表」でも紹介されています。研究の背景にある、旺建と九州大学の香川ヒノキの共同研究や、根から採った精油のブランドについては、日本経済新聞「香川県産ヒノキの香り成分、地元住宅会社が活用研究」(2022年8月18日)と、PR TIMES の旺建のプレスリリース「香川ヒノキの香りを、暮らしの中へ」(2025年7月22日)でも紹介されています。
ヒノキの香りと聞くと、檜風呂や新しい木の家を思い浮かべる人が多いかもしれません。木材として使われるのは主に幹で、枝や葉、そして根は、ほとんど使われずに残されてきました。
今回読むのは、そのヒノキの根から採った精油の香りで、眠りが変わるかを確かめた研究です。実験室ではなく、参加者がふだん暮らしている自分の家で、香りのある2週間と無い2週間を比べています。眠りと香りを考えていく最初の回として、この研究から始めます。
この論文について
- 論文:Sleep improvement by Kagawa Hinoki root volatiles in middle-aged women: a home-based pilot study(香川県産ヒノキの根の揮発成分による中年女性の睡眠の改善:自宅で行った予備研究)
- 著者:Fadilla Zennifa、Akiko Isa、Erika Tomimatsu、Yanli Xu、Ryuma Taki、Hiroo Yasutomi、Naotoshi Yasumori、Kuniyoshi Shimizu
- 所属(論文の記載):九州大学農学部ほか、旺建(香川県高松市の住宅メーカー)研究開発部
- 掲載:Journal of Wood Science(2026年)。査読を経て受理された原稿を、最終的な編集の前に公開した早期公開版です。誰でも全文を読めます(CC BY 4.0)。最終版では表現や数値が整えられる可能性があります。
- 研究の登録:大学の倫理委員会の承認を受け、臨床試験の登録(UMIN000057373)もされています。
- 研究の体制:九州大学と旺建の共同研究で、精油は同社が提供しています。論文には、同社は実験の設計・解析・解釈・執筆に関与していないと明記されています。
どうやって調べたのか
参加者
九州大学の構内のポスターとSNSで募集した、35〜60歳の日本人女性12人です(平均46歳)。日勤で働いていて、心の病気や神経の治療を受けておらず、たばこを吸わず、においの感じ方に問題が無い人たちです。睡眠の質を測る質問票(PSQI)では平均6.08点で、一般に「5.5点より上は睡眠の質が悪い」目安とされる範囲でした。
実験の前には、ヒノキの根の精油をかいだあと、4種類の香り(ヒノキの根の精油・無香の油・ゆずの精油・ホワイトムスク)から同じものを当ててもらう簡単なテストをしています。香りをきちんと感じ分けられる人だけが参加しました。実験は2025年1月8日〜2月18日、冬の時期です。
比べたもの
| 中身 | |
|---|---|
| 香りあり | 香川県産ヒノキの根の精油。森の手入れで出た根(幹の一部を含む)をチップにし、水蒸気で蒸留したもの |
| 香りなし(対照) | スクワラン。においの無い油 |
どちらも遮光のガラス瓶に入れて封をし、参加者には中身が分からないようにしてありました(単盲検)。
進め方
- それぞれ2週間ずつ、あいだに1週間の休みをはさんで、両方を試します。
- 毎晩、紙コップの裏側に油を3滴(約0.06g)たらし、10秒ほど香りをかいでから、鼻から約30cmのところにコップを置いて眠ります。
- 手首には寝る1時間前からスマートウォッチ(Fitbit Charge 5)を着け、1日目・2日目・7日目・8日目・13日目・14日目の夜は、頭にヘッドバンド型の脳波計(Muse S)も着けます。※リンク先は、どちらも現在販売されている後継の機種です。
- 毎朝、起きたときの眠りの様子を質問票(OSA睡眠調査票MA版)に答えます。答え忘れを防ぐため、タブレットの予定表とスマートウォッチの振動で知らせる工夫もしています。2週間の終わりには、香りの印象も評価しました。
脳波は、横になってから最初の20分(0〜10分と10〜20分)を詳しく分析しています。眠りにつくころには嗅覚の働きが落ちていくため、香りの影響を見るなら眠りの入り口が大切だ、と著者らは考えました。
この研究のよいところ
- ふだんの暮らしの中で調べている:実験室で一晩だけ測る研究が多い中、自分の寝室で2週間ずつ続けています。実際に香りを使う場面に近い条件です。
- 心と体の両面から見ている:朝の質問票(感じ方)、スマートウォッチ(一晩の様子)、脳波(寝入りばな)と、性質の違う3つの物差しを組み合わせています。
- 香りの中身を分析している:精油から実際にどんな成分が空気中に出ているかを調べ、α-ピネン(揮発成分の約37%)を中心に、カジネン、リモネンなどが出ていることを確かめています。
- 未利用の資源に目を向けている:これまで活用されてこなかったヒノキの根を、香りとして生かす試みです。
- 登録と倫理審査を経ている:研究の計画を事前に公開の登録簿へ載せています。
分かったこと
1. 香りは「リラックスする」「なつかしい」と評価された
香りの印象は、強さ・好ましさ・苦み・リラックス・心地よさ・上品さ・なつかしさ・木の香りの8項目で、香りなしより高く評価されました。甘さと酸っぱさには差がありませんでした。12人全員が、リラックス・心地よさ・なつかしさを、香りなしより高くつけています。
2. 朝の目覚めの眠気が少なく、疲れの回復を感じやすくなった
朝の質問票の5つの項目を、1日目・7日目・13日目で比べています(論文の図から読み取った傾向を含みます)。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 起きたときの眠気(の少なさ) | 3回とも香りありの方が高く、13日目にははっきりした差になった |
| 疲れの回復 | 3回とも香りありの方が高く、13日目にははっきりした差になった |
| 寝つきと眠りの続き | 13日目には香りありの方が高かったが、日によって上下があり、統計的な差とまでは言えなかった |
| 眠った時間の実感 | 香りありでは日を追うごとに少しずつ上がっていたが、統計的な差とまでは言えなかった |
| 夢 | 差なし |
使い続けた2週間目に、目覚めの感じ方の差がはっきりしてきた、というのがこの研究の主な結果の一つです。
3. 夜中に目覚めていた時間が、2週間目に短くなった
スマートウォッチの記録では、夜中に目覚めていた時間が、13日目に香りありの方で短くなっていました(記録がそろった10人で分析)。論文の図から読み取ると、香りありで約35分、香りなしで約46分です。
ほかの項目は、統計的な差とまでは言えませんでした。ただ、図を見ると、眠った時間は3回とも香りありの方がやや長く、睡眠スコアと睡眠効率(寝床にいた時間のうち、眠っていた時間の割合)も13日目には香りありの方が高めでした。深い眠りの割合は、1日目と7日目に香りありの方が高めで、13日目にはほぼ同じでした。
4. 寝入りばなの脳波で、「ゆっくりした波」が増えた
眠りに入るときには、速い脳波(β波)が減り、ゆっくりした脳波(θ波・δ波)が増えていきます。δ波は、深い眠りで多く出る波です。
香りありの夜には、横になってから0〜10分より10〜20分の方が、δ波の割合がはっきり増え、β波は減っていました(7日目と13日目)。著者らは、香りが目覚めから眠りへの移り変わりを滑らかにした可能性がある、と考えています。
結果の受け止め方
この研究は、著者ら自身が「大きな規模の実験への土台」と位置づける予備研究です。結果を日々の暮らしに生かすうえで、次の点を知っておくと、より正確に受け止められると思います。
- 寝入りばなの脳波の差は、7日目に最もはっきりしていました:横になってからの20分でδ波がどれだけ増えたかを、香りありと香りなしで直接比べると、差が出たのは7日目です。13日目には、香りなしの夜でもδ波が増えていて、両者は近い値でした。
- 脳波で見たのは、寝入りばなの20分です:一晩を通した深い眠りは、スマートウォッチの記録で見ています。
- 12人という小さな規模です:脳波は10人、睡眠スコアは8人分の記録で分析しています。この人数では、図の上では差がありそうに見えても、統計的には差とまで言えないことがよくあります。眠った時間や睡眠スコアがそうした例で、より大きな研究で確かめたいところです。
- 香りの有無は、参加者にも伝わります:中身は伏せていましたが、片方は香り、片方は無臭なので、どちらを使っているかは分かったと考えられます。「心地よい香りに包まれている」という感覚そのものも、この研究の結果の一部と言えます。
- 自宅ならではの条件の違い:部屋の温度や湿度、体格(BMI)は記録していない、と著者らは書いています。実験は冬の6週間で、季節の移り変わりも含まれています。
- ヒノキの根の精油ならではの結果です:根から採った精油は、市販のヒノキの精油(幹や枝葉から採ったもの)とは香りの印象がはっきり異なっていた、と著者らは書いています。精油を手がける旺建の公式サイトでも、森林浴のようなヒノキの香りに、龍涎香(りゅうぜんこう)や沈香(じんこう)、伽羅(きゃら)といった高級な香料を思わせる奥行きが重なる、特別な香りとして紹介されています。この結果は、そうした根ならではの香りで得られたものです。
日常で取り入れるなら
12人の結果からうかがえるのは、次のようなことです。
- 心地よいと感じる木の香りを寝る前の習慣にすると、目覚めの眠気が少なく、疲れが取れたと感じやすくなるかもしれない
- 差がはっきりしたのは、使い始めてすぐではなく、2週間目だった
- 夜中に目覚めている時間が短くなる方向の変化も見えた
試してみるなら、この研究と同じように、ほんの数滴を枕元から少し離して置くくらいの、控えめな香らせ方から始めるのがよさそうです。香りの好みは人によって違います。1日で判断せず、2週間ほど続けて、朝の感じ方を確かめてみてください。
精油は原液を肌につけたり、飲んだりしないでください。妊娠中の人、持病のある人、ペットと暮らしている人は、使う前に医師や獣医師に相談すると安心です。
PRhinoki/kagawa は、この研究の共同研究者でもある旺建が、香川県産ヒノキの根から採った精油で作る香りのブランド。急な北斜面で、雨の少ない厳しい環境に育ったヒノキの根をチップにし、水蒸気蒸留で手作業でじっくり抽出したあと、時間をかけて熟成させています。公式サイトによると、香りは一般的なヒノキの精油とはまったく異なり、森林浴のような清涼感のあるヒノキのウッディノートに、龍涎香(りゅうぜんこう)や沈香(じんこう)、苔を思わせる奥行きが重なるとのこと。どれも高級な香水にも使われる香りの要素で、根ならではの深みを感じさせます。精油の「sleep scent oil」のほか、香りの水やヒノキの箱もあります。研究で使われた精油と同じ製品かどうかは、論文には書かれていません。hinoki/kagawa 公式サイト ›
PRヒノキの精油は、ヒノキの木を水蒸気で蒸留して採った精油。幹や枝葉から採ったもの、国産のヒノキを産地ごとに蒸留したものなどがあり、森林浴を思わせる、すっきりとした木の香りが楽しめます。研究で使われたヒノキの根の精油とは、香りが異なる可能性が高いことをご承知おきください。ヒノキの精油 ›リンク先は Amazon の検索結果です。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。
PRFitbit Charge 6 は、研究で使われた Charge 5 の後継の活動量計。毎晩の睡眠スコアと、浅い睡眠・深い睡眠・レム睡眠のグラフで、眠りの記録を残せます。24時間の心拍数の測定、最大7日間のバッテリー、Google ウォレットでの Suica の支払いにも対応しています。Fitbit Charge 6 ›リンク先は Amazon の商品ページです(本文「進め方」の「Fitbit Charge 5」のリンクも同じページです)。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。
PRMuse S Athena は、研究で使われた Muse S(第2世代)の後継となる、第3世代のヘッドバンド。脳波(EEG)のセンサーに加えて、光で脳の血流の変化をとらえる fNIRS のセンサーを備えています。やわらかく長さを調節できるバンドで、スマートフォンの MUSE アプリと Bluetooth でつなぎ、瞑想や睡眠の記録に使えます。Muse S Athena ›リンク先は Amazon の商品ページです(本文「進め方」の「Muse S」のリンクも同じページです)。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。
香りが変われば、眠りへの働きかけも変わるのでしょうか。ラベンダーのように心地よい香りもあれば、いわゆるイヤな匂いと言われるような、眠りを妨げてしまうようなにおいもあります。香りの違いと眠りの関係については、次回のコラムで紹介する予定です。
香りを置いたら、あとは灯りを落として眠るだけです。眠りの和声では、雨音や小川の音と、やさしい和音を流せる再生画面もご用意しています。
この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。眠れない日が長く続く場合は、医療機関にご相談ください。
この研究の著者・研究室・企業
- 研究室森林圏環境資源科学研究室(九州大学大学院 生物資源環境科学府。清水邦義准教授)
- 企業株式会社 旺建(香川県高松市の住宅会社。精油を提供し、研究開発部の社員も著者に加わっています。共同研究の紹介は同社のページ)
参考文献
- Fadilla Zennifa, Akiko Isa, Erika Tomimatsu, Yanli Xu, Ryuma Taki, Hiroo Yasutomi, Naotoshi Yasumori, Kuniyoshi Shimizu. Sleep improvement by Kagawa Hinoki root volatiles in middle-aged women: a home-based pilot study. Journal of Wood Science (2026). doi:10.1186/s10086-026-02296-3(早期公開版)