寝起きのボンヤリ頭は徹夜明けより働かない!?睡眠慣性についての数十年の研究をまとめたNASAエイムズ疲労対策研究室の研究者らの総説を読む
今朝の記事では、目覚ましの音にメロディがあると、起きた後の寝ぼけが少ないかもしれない、という50人の調査を読みました。そこで出てきた言葉が「睡眠慣性」です。
目は覚めているのに、頭が回らない。言われたことが入ってこない。起き抜けのこの時間は、いったい何が起きていて、どのくらい続き、何をすれば軽くなるのでしょうか。
今夜は、睡眠慣性について数十年分の研究をまとめた総説を読みます。
この論文について
- 題名: Sleep inertia: current insights(睡眠慣性 ― いまわかっていること)
- 著者: Cassie J. Hilditch(サンノゼ州立大学研究財団。NASA エイムズ研究センターの疲労対策研究室)、Andrew W. McHill(オレゴン健康科学大学 オレゴン産業保健科学研究所。アメリカ)
- 掲載: Nature and Science of Sleep 11: 155–165(2019年8月)。査読を経て掲載された総説です。
- 資金: Hilditch さんは NASA の研究費、McHill さんはアメリカ国立衛生研究所(NIH)の研究費とオレゴン産業保健科学研究所の支援を受けています。資金の出し手は総説の作成に関わっていないとされています。McHill さんは、ユタ州の睡眠研究の学会と、カリフォルニア州のプレキャストコンクリートの業界団体から、講演料または旅費を受けたことを開示しています。
総説は、新しい実験をしたものではなく、これまでの研究を読み比べて整理したものです。
睡眠慣性は「三つ目の働き」
眠気は、ふつう二つの働きで説明されます。
- 起きている時間が長いほどたまる眠気(眠ると減る)
- 体内時計による眠気と目覚めの波(夜に眠く、昼に目が冴える)
この二つだけで考えると、朝起きた直後は、眠気はたっぷり眠って減っていて、体内時計も目覚めに向かっているので、頭はよく働くはずです。ところが実際には、起きた直後に、短いながらはっきりと働きが落ちます。そこで、二つの働きに加える三つ目の働きとして、睡眠慣性が位置づけられています。
1939年、睡眠研究の先駆けであるクライトマンは「起きた直後は、何時であっても本調子ではない」と書き残しています。これが、睡眠慣性を記した最も古い記述のひとつとされています。
なぜ、そんなものがあるのか
はっきりしたことは、まだ分かっていません。総説では、次のような考えが紹介されています。
- 危険が迫ったときは、すぐ起きられるほうが有利なはず。一方で、眠りから目覚めへの切り替えは脳にとって複雑なので、ゆっくり切り替えることが脳を守っているのかもしれない
- 明け方、眠気がほとんど減ったころに目が覚めかけても、もう一度眠りに戻れるよう、眠りを保つ仕組みなのかもしれない
いずれも仮説で、確かめるにはさらに研究が必要だとしています。
起きた直後の脳では何が起きているか
総説がまとめた研究からは、目覚めは「一斉に」ではなく、脳の部分ごとに少しずつ起きていく様子が見えてきます。
- 脳波: 眠る前に比べて、深い眠りに多い遅い波が多く、目覚めに多い速い波が少ない。遅い波は、頭の後ろのほうで特に多く残っていた
- 脳のつながり方: 深い眠りから起きた人では、ぼんやりしているときに働く脳のネットワークと、体の動きや注意に関わる部分とのつながり方が、眠っているときに近い状態だった(Vallat ほか 2019)
- 脳の血の流れ: 起きてから30分ほどは、眠る前より流れが遅い。特に、計画や判断を受け持つ額の奥の部分(前頭前野)は、戻るのに時間がかかっていた
- 動物の実験: ネズミでは、起きてから1分ほど、一部の神経細胞が静かなままだった。レム睡眠から起きたときのほうが、静かな細胞が多かった
考えるための部分ほど、起きるのが遅い。起き抜けに難しいことを考えられないのは、このためのようです。
睡眠慣性が重くなる3つの条件
1. 寝不足のあと
寝不足のあとに起きると、睡眠慣性は重くなります。総説では、次のような研究が挙げられています。
- 起きていた時間(6〜54時間)を変えてから2時間の仮眠を取ってもらうと、起きていた時間が長いほど、起きた後の反応が遅く、引き算の正答も減った
- 1日あたり5.6時間の睡眠に相当する生活を続けると、8時間に相当する生活に比べて、起きた直後の成績が10%悪くなり、起きてから70分たっても、ふだんの水準に戻らなかった(McHill ほか 2019。この総説の著者の一人の研究です)
一晩の寝不足でも、寝不足が何日も積み重なっても、同じ方向です。
2. 夜中に起きたとき
睡眠慣性は、体内時計の上での夜、体温が最も低くなるころに起きたときに、最も重くなります。
体内時計の影響だけを取り出せるよう、生活の時刻を1日中に散らした実験では、起きて2分以内の足し算の成績に、体内時計の時刻ではっきりした差が出ました。その揺れ幅は、起きてしばらくたってからより、起きた直後のほうが大きかったとされています。55歳以上の人でも、同じ結果が出ています。
さらに、寝不足との組み合わせも調べられています。午後3時ごろ(目覚めの山)の仮眠では寝不足の影響が小さく、午前3時ごろ(目覚めの谷)の仮眠では大きくなりました。
3. 深い眠りから起きたとき(ただし、はっきりしない)
深い眠り(徐波睡眠)から起きると寝ぼけが重い、という研究は昔からあります。
- 54時間の断眠の間の2時間の仮眠では、眠りが深いほど、電話に出るまでが遅かった
- 深い眠りから起きた人は、成績が仮眠前より41%落ちた一方、浅い眠り(ステージ2)から起きた人は、起きていた人と変わらなかった
ところが、関係が見られなかった研究も少なくありません。夜勤を模した30分の仮眠で、91%の人が深い眠りから起きたのに、成績が落ちなかった研究もあります。
著者は、2時間ほどの長い仮眠や、寝不足が強いときには眠りの深さの影響が出やすく、短い仮眠や寝不足の少ないときには出にくい、という傾向を挙げています。そのうえで、深い眠りの役割についてはっきりした結論は出しにくいとしています。
条件がそろわなくても、起こりうる
ここまでの3つは、睡眠慣性を重くする条件です。ただ、よく眠れていて、いつもの時刻に起きた朝でも、睡眠慣性は見られます。健康な人が、いつもの時刻に8時間眠って起きた後にも、はっきりした落ち込みが見られています。よく休めた条件で、少なくとも1時間ほど続いたという研究もあります。
※「昼寝は30分以内なら寝ぼけない」とよく言われます。総説でも、30分以内の仮眠では睡眠慣性が出にくいという研究が紹介されています。ただ、徹夜明けの朝7時に取った10分の仮眠でも、起きた直後に成績が落ちた研究があり、短い仮眠でも状況によっては避けられない、とされています。
どのくらい続くのか
多くの研究では、起きてから15〜30分で、眠る前の水準に戻っています。ただ、時間をかけて細かく測った研究では、はじめは急に回復し、その後はゆっくりと戻っていく形で、すっかり戻るには少なくとも1時間はかかるようです。
いつもの朝の起床のあと、4時間にわたって測った研究では、
- 本人が感じる目の冴えは、2時間ほど上がり続けた
- 足し算の成績が戻るまでには、3.5時間ほどかかった
とされています。ただし、朝は体内時計による目覚めも同時に進むので、睡眠慣性だけの影響とは切り分けられません。
「もう大丈夫」は当てにならない
興味深いのは、本人の感じ方と、実際の成績が食い違うことです。夜中に30分の仮眠をとった後、成績は仮眠前より悪かったのに、本人は「仮眠前よりうまくできている」と答えた研究があります。起き抜けの「もう目が覚めた」という感覚は、当てにならないことがある、ということです。
また、夜型の人は、朝型の人より、睡眠慣性からの回復に時間がかかったという研究も紹介されています。
徹夜よりも重いことがある
総説の中で、とりわけ印象に残るのがこの節です。起きた直後の15〜30分の落ち込みは、徹夜と同じか、それより重いことがあるといいます。
- いつもの時刻に8時間眠って起きた直後の足し算の成績は、一晩の徹夜のあとより落ちていた(Wertz ほか 2006)
- 3時間しか眠らずに起きた後の1時間は、徹夜した人と反応の速さが変わらなかった。3時間眠った効果が、睡眠慣性に隠されていた
- 64時間の断眠のあと2時間眠って起きた直後は、眠る前より、記憶と反応の課題の成績が悪かった
- 64時間の断眠の間に、6時間ごとに20分の仮眠をとったグループは、仮眠をとらなかったグループより、起きた後の成績が悪かった。仮眠のグループでは、起きた後のつらさから6人が途中で研究をやめた(仮眠なしのグループは全員が最後まで参加)
著者は、寝不足のあとの回復の眠りは、効果が表れるまでに、起きてから1時間ほど遅れることがある、とまとめています。
暮らしや仕事への影響
睡眠慣性は、起きてすぐに大事な判断をしたり、乗り物を動かしたりする人にとって、安全の問題になります。
- 火災の対応や、軍の演習、宇宙服を着る作業を模した課題でも、起き抜けには成績が落ちた
- 看護師への聞き取りや、救急医療の航空機のパイロットへのアンケートでも、夜勤や呼び出しのある仕事で、よく起きる問題として挙げられていた
- アメリカ空軍の400件を超える事故をさかのぼって調べると、パイロットの判断ミスによる事故は、起きてから1時間以内に最も多かった
総説では、睡眠慣性が要因の一つとされた船や航空機の事故の報告書も挙げられています。
軽くする方法
起きる前にできること
ここまでの研究から、著者は、計画して起きるときには、できるだけ次の点を満たすよう勧めています。
- 眠る前に、長く起き続けない
- 寝不足をためない(一晩の寝不足も、積み重なる寝不足も)
- 体内時計の夜(目覚めの谷)に起きるのを避ける
- 仮眠なら、30分より短くする
ただし、これを守っても、睡眠慣性がまったく起きないとは限りません。
そのうえで、起きる前の対策で最も効果がありそうなのはカフェインだとしています。短い仮眠(たとえば20分)の前にカフェインをとると、仮眠のあとの睡眠慣性が和らいだ、という研究が挙げられています。
起きてからできること(まだ決め手がない)
一方で、起きてからとる対策については、はっきりと効くと言える研究はまだない、というのが著者の見方です。
- カフェイン(起きた後): すぐ吸収されるガムの形でも、効き始めるまでに時間がかかり、最もつらい起きた直後には間に合わなかった。カフェインが長く効くので、数時間後にまた眠りたいときには向かないこともある
- 光: 起きた後に明るい光を浴びた2つの研究では、本人の目の冴えが上がったとする研究はあったものの、成績の向上は見られなかった。どちらも昼間(7時ごろと13時ごろ)の実験で、夜中に起きたときの効果は分かっていない
- 音: 期待が持てるとしています。夜中の1時の仮眠から起きた後にピンクノイズを流すと、流さなかった人に見られた睡眠慣性が消えた(ただし4時の仮眠ではそれほどはっきりしなかった)。昼の短い仮眠の後に好きな音楽を流すと、眠気が下がり、起きてから20分ほど成績もよかった。ヘッドホンで流せるので、職場でも使いやすいかもしれない、としています
- 体の温度: 起きた後、手足と体の中心の温度の差の変わり方が、本人の眠気と結びついている、という研究がある。起きてすぐに手足を冷やすと回復が早まるかもしれないという考えはあるが、まだ確かめられていない
- 運動: 睡眠慣性への効果を調べた研究は、著者の知る限りまだない。額の奥の血の流れの戻りが遅いことから、ほどよく体を動かすことが回復を早めるかもしれず、調べる価値がある、としています
今朝の記事の「研究の背景」で触れた、ピンクノイズと好きな音楽で起こす研究です。目覚ましの音の研究は、この総説の中でも、期待が持てる分野として扱われていました。
この総説のよいところ
- 「なぜ」「いつ」「どうなる」「どうする」を一つにまとめている: 脳の仕組み、重くなる条件、続く時間と影響、対策までを、一本の流れで読めます。
- はっきりしないことを、はっきりしないと書いている: 深い眠りの役割や、起きてからの対策について、研究の結果が食い違っていることを、そのまま示しています。「深い眠りから起こすと必ず寝ぼける」「光を浴びればすっきりする」のような、分かりやすい言い切りをしていません。
- 現場の目線がある: 著者の二人は、パイロットの疲労や、交代勤務と眠りを研究しています。呼び出しで起きてすぐ働く人のための、実際に使える対策を求める視点が、総説全体を通っています。
結果の受け止め方
- 研究を読み比べた総説: 新しい実験ではありません。どの研究をどう選んだかの手順は書かれておらず、著者自身の研究も多く含まれています。数値は、それぞれの元の研究のものです。
- 実験室の研究が中心: 多くは、断眠や夜中の仮眠など、ふだんの暮らしより厳しい条件で測られています。著者も、実際の現場での研究が足りないとしています。
- 2019年の時点の整理: その後の研究で、見方が変わっている部分があるかもしれません。
- 感じ方と成績はずれる: 「目が覚めた」と感じても、頭はまだ戻りきっていないことがあります。逆に、ぼんやりを感じていても、それは誰にでも起きる、時間とともに薄れていくものです。
日常で取り入れるなら
- 起きてすぐに大事な判断をしない: 起きてから15〜30分は、重要なメールの返信や、難しい決めごとを後に回すとよさそうです
- 起きてすぐに運転しない: 仮眠の後も含めて、少し時間を置いてから。「もう目が覚めた」という感覚は当てにならないことがあります
- 寝不足をためない: 睡眠慣性を重くする一番身近な条件です
- 昼寝は短めに: 30分より短く。それでも起き抜けはぼんやりしうるので、すぐに大事な作業を入れない
- コーヒーを飲むなら、仮眠の前に: 20分ほどの仮眠の前に飲む方法が研究されています。夕方以降は夜の眠りへの影響も考えて
- 起きたら、好きな音楽を: 総説の中では、期待が持てる方法として挙げられていました
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総説は、睡眠慣性を重くする条件として、寝不足・夜中の目覚め・深い眠りを挙げていました。では、ふだんの暮らしの中で、すっきり起きられる朝と、そうでない朝を分けているものは何でしょうか。次回は、833人の数週間の記録から、前の晩の眠り・前の日の運動・朝食と、目覚めのよさとの関係を調べた研究(Vallat ほか 2022)を紹介する予定です。
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この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。朝起きられない状態や日中の強い眠気が続く場合は、医師にご相談ください。
この研究の著者・研究室・企業
- 研究室NASA エイムズ研究センター 疲労対策研究室(筆頭著者の Hilditch さんの、論文の当時の研究室。サンノゼ州立大学研究財団の研究員として所属し、パイロットの疲労などを研究していました)
- 研究室Andrew McHill 准教授(責任著者。オレゴン健康科学大学 看護学部の Sleep, Chronobiology, and Health Laboratory を主宰。論文の当時は同大学 オレゴン産業保健科学研究所の研究助教授)
参考文献
- Cassie J. Hilditch, Andrew W. McHill. Sleep inertia: current insights. Nature and Science of Sleep 11: 155–165 (2019). doi:10.2147/NSS.S188911(PMC で全文公開)