fortuna眠りの和声

寝ぼけは起きてから払える?方法を集めた総説「起きる時間だ:睡眠慣性への事後の対策」が行き着いたのは、寝る前のコーヒーだった

パステルの水彩風のイラスト。昼下がりの明るい部屋で、白いセーターの人が木の机に腕を組んで顔をのせ、目を閉じて短い昼寝をしている。机の上には飲み終えたコーヒーカップとラベンダーの鉢。壁の時計は1時すぎを指している。右上に記事の題名「寝ぼけは起きてから払える?方法を集めた総説「起きる時間だ:睡眠慣性への事後の対策」が行き着いたのは、寝る前のコーヒーだった」
イメージイラスト(AI生成)

仮眠の前にコーヒーを飲んでおくと、起きるころにカフェインが効いてきて、すっきり目覚められる ― 「コーヒーナップ」と呼ばれる方法です。

今朝読むのは、起きた直後のぼんやり(睡眠慣性)を、起きてから払う方法を調べた研究をまとめた総説です。カフェインのほか、明るい光、音、体の温度、目覚ましに頼らず自分で起きること、顔を洗うことまで、17本の研究を並べています。コーヒーナップのもとになった実験も、その中でくわしく取り上げられています。

この論文は、新しい実験ではなく、これまでの研究をまとめた総説です。 また、まとめられた17本のうち少なくとも5本は、広島大学の林光緒さんたちの研究でした。スヌーズの記事で読んだ研究の著者の1人です。

この論文について

  • 題名: Time to wake up: reactive countermeasures to sleep inertia(起きる時間だ:睡眠慣性への事後の対策)
  • 著者: Cassie J. Hilditch さん、Jillian Dorrian さん、Siobhan Banks さん(南オーストラリア大学 睡眠研究センター。オーストラリア)
  • 掲載: Industrial Health 54巻6号(2016年)。日本の労働安全衛生総合研究所が発行する英文の学術誌で、査読を経て掲載され、誰でも全文を読めます。
  • 資金と利害: 著者らは、利害の衝突はないとしています。研究費についての記載は、本文には見当たりませんでした。

Hilditch さんは、この3年後に睡眠慣性の総説を書き、起きてすぐの運動の仮説の論文にも加わっています。今朝の論文は、その出発点にあたるものです。

論文が問題にしていること

睡眠慣性は、起きた直後がいちばん重く、ふつうは15〜60分ほどで元に戻っていきます。論文はまず、睡眠慣性が関わったとされる事故を挙げています。158人が亡くなった航空機事故では、機内で仮眠をとって起きたばかりの機長の判断の誤りが、原因の1つとされました。

これまでの研究の多くは、「何時に、どのくらい眠れば、睡眠慣性が軽くて済むか」という、眠る前に計画する対策を調べてきました。たとえば、仮眠は30分より短くして深い眠りに入る前に起きる、体内時計がいちばん低い時間帯に起きない、といったものです。

けれども、呼び出される仕事(救急や軍隊など)や、夜勤の合間に仮眠をとる医療の仕事では、いつ起こされるか分かりません。そこで著者らは、**起きてから打てる手(事後の対策)**の研究に絞って集めました。それなのに、こうした研究は意外なほど少ない、と書いています。

どう集めたか

2015年7月8日に、3つの論文データベース(PubMed・ScienceDirect・Scopus)で、「睡眠慣性」と、カフェイン・光・音・温度・仮眠・自分で起きる、などの言葉を組み合わせて探しました。見つかった256本と、参考文献からたどった2本のうち、重複の150本と、条件に合わない91本を除いた 17本 が残りました。

17本はすべて実験室で行われた研究で、参加者は1つの研究あたり8〜44人です。測り方も、起きる時刻も、それまでの眠り方もばらばらなので、研究どうしを直接比べることはできません。そのため著者らは、厳密な決まりで研究を選び数字をまとめる方法(系統的レビュー)はとらず、幅広く集めて読み解く形にした、としています。

見つかった対策は、次の6種類でした。

対策研究の数総説での評価(おおまかに)
カフェイン4寝る前にとると、短い仮眠のあとの寝ぼけを抑えられる。起きてからでは効き始めが遅い
光6眠気の感じ方はよくなることがあるが、課題の成績はほとんど変わらない
音2条件によっては、少なくとも短い間、成績がよくなる可能性
温度2手足の温度の変化と眠気の関係が見えた段階。成績はまだ調べられていない
自分で起きる4眠気や成績がよくなった研究もあるが、思った時刻に起きられるとは限らない
顔を洗う1眠気はすぐに軽くなるが長続きせず、成績は変わらない

※林さんたちの2003年の研究は、カフェイン・光・顔を洗うことの3つを1つの実験で比べているので、表の3か所に数えています。

カフェイン ― コーヒーナップのもとになった実験

カフェインは、起きている時間が長くなるにつれて脳にたまり、眠気を起こす物質(アデノシン)の働きを邪魔して、目を覚まさせます。総説では、4本の研究が取り上げられています。

仮眠の前に飲んだ2つの研究

林さんたちの研究(2003年) は、カフェインを抜いたコーヒーにカフェイン200mg(インスタントコーヒーで2〜3杯分)を加えて飲んでもらい、13時に終わる20分の昼寝をとってもらいました。その結果、カフェインを飲んだ回は、起きて15分後から、眠気も課題の成績もよくなっていました。

ただ、総説はこう指摘しています。起きてから15分の間は、昼寝をした回と昼寝をしなかった回で差がなく、そもそも寝ぼけがはっきり出ていなかった。20分の昼寝の間に実際に眠っていたのは平均14.8分で、深い眠りには入っていません。寝ぼけが出にくい条件だったため、カフェインが寝ぼけそのものを払ったのかは、この実験からは言いにくい、としています。

Reyner さんと Horne さんの研究(1997年) は、運転の実験です。カフェイン150mg(コーヒーでおよそ2杯分)と15分の仮眠を組み合わせると、そのあとの2時間の運転の成績が、どちらか一方だけのときよりよかったという結果でした。運転は仮眠から5分後に始めていて、寝ぼけが残っているはずの時間です。

ただ、この研究は寝ぼけを調べることが目的ではなく、運転の成績を30分ごとにまとめていたため、起きた直後の数分の変化は分かりません。また、「仮眠だけ」の組とは直接比べておらず、比べた相手は、条件の少し違う前の研究の参加者でした。

それでもこの研究をもとに、眠気を感じた運転者にコーヒーと仮眠を勧める、政府主導の交通安全キャンペーンが行われている、と総説は紹介しています。著者らは、こうした勧めには、起きた直後の運転を直接調べた、もっと強い根拠が要る、と書いています。

起きてからとった研究

ガムの研究(Newman さんたち、2013年) では、起きてすぐにカフェイン100mg入りのガムをかんでもらいました。ガムは錠剤より早くカフェインが血液に入ります。それでも、カフェインのないガムとの差が出たのは、起きて12〜18分後からでした。いちばんつらい起きた直後には、間に合わなかったことになります。

少しずつ飲み続けた研究(Van Dongen さんたち、2001年) は、88時間起き続ける間に、12時間ごとに2時間の仮眠をとる実験です。カフェインを1時間ごとに少しずつ(コーヒーにして1時間に4分の1杯ほどを66時間)とり続けた組では、仮眠のあとの反応の速さの低下が見られませんでした。ただ、これも仮眠の前からとっていたもので、起きてから飲んだわけではありません。

総説の見立て

まとめると、カフェインは仮眠の前にとっておけば、短い仮眠のあとの寝ぼけをほとんどすぐに消せる可能性がある。一方で、起きてからでは効き始めるまでに十数分かかります。総説は、カフェインを「いちばん頼りになりそうな対策」としながらも、効くのは前もって飲んだときなので、厳密には「起きてから打てる手」ではない、と結んでいます。

そのうえで、気をつけることも挙げています。

  • 眠りが浅くなるかもしれない: 仮眠の前にカフェインをとると、寝つきが遅れたり、深い眠りが減ったりすることがある
  • 人によって効き方が違う: ふだんたくさんコーヒーを飲む人と、あまり飲まない人では、同じ量でも効き方が違うかもしれない
  • あとの眠りに響く: カフェインは長く効くので、夜勤の終わりごろなど、このあとまた眠りたいときには向かない

カフェインのほかの方法

光

林さんたちの2003年の実験では、昼寝から起きたあとに2,000ルクスの明るい光を1分間浴びてもらいました。起きてから15分の間の寝ぼけは減りませんでしたが、そのあと45分ほど、眠気の感じ方が少しよくなりました。

起きる前の30分で部屋を少しずつ明るくする「夜明けの光」の研究は、眠気の感じ方はよくなっても、成績には差がないものが多く、成績もややよくなった研究は1本でした。総説は、光は「すっきりした感じ」には効くかもしれないが、成績まで変わるかはまだ分からない、としています。

音

1992年の研究では、夜中の1時に1時間の仮眠から起こしたあと、75デシベルのピンクノイズ(低い音の多い、ザーッという雑音)を流すと、空間の記憶の課題の成績の落ち込みが見られませんでした。ただし、4時に起こしたときには効きませんでした。

林さんたちの2004年の研究では、昼寝から起きたあと、気分を盛り上げる音楽を60デシベルで流しました。音楽、特に本人が好きな音楽で、眠気が軽くなりました。課題の成績も、好きな音楽のほうが、あまり好きでない音楽よりよかったそうです。

総説は、仮眠室に、働く人が選んだ曲を入れた音楽プレーヤーとヘッドホンを置いておく、という使い方を例に挙げています。

体の温度

2004年と2006年の研究で、起きたあと手足と体の中心の皮膚の温度差が縮んでいくほど、眠気が軽くなっていく関係が見えました。著者らは、起きたら手足を冷たい水に入れて、手足から熱を逃がすのを止めるような方法も考えられる、と書いています。カフェインや光と違って、そのあとの眠りに響かないのも利点です。ただ、成績がよくなるかはまだ調べられていません。

目覚ましに頼らず、自分で起きる

あらかじめ決めた時刻に、目覚ましなしで自分で起きる「自己覚醒」も、林さんたちのグループがくり返し調べてきたテーマです。15分の昼寝から自分で起きると、起こされたときより眠りが浅く、起きたあとの脳の反応が大きかった、という研究があります。

ただ、思ったとおりに起きられるかは人によります。自分で起きられるという人を選んだ研究では、目標の15分の前後5分以内に起きられたのは71〜82%でした。一方、ふだん目覚ましで起きている人を対象にした研究では、30回のうち、目標の時刻の前後30分以内に起きられたのは9回(30%)だけでした。決まった時刻に仕事へ戻らなければならない人には頼りにしにくい、と総説はしています。

顔を洗う

林さんたちの2003年の実験では、昼寝のあとに顔を洗ってもらうことも試しています。眠気はすぐに軽くなりましたが、長続きせず、記憶の課題の成績は変わりませんでした。

「アドレナリンが出るから大丈夫」は?

呼び出される仕事の人は、「いざとなればアドレナリンが出て目が覚める」とよく言います。けれども、起きた直後のアドレナリンと頭の働きの関係を調べた研究は無く、救急の仕事の人は慣れて「アドレナリンが出る感じ」がしなくなる、という話もあります。総説は、確かめられるまでは、これに頼るべきではないとしています。

総説の結論

  • 起きてから15分以内に効く「事後の対策」は、まだ確かな根拠のあるものが無い
  • いちばん近いのはカフェインだが、仮眠の前にとっておく必要がある。仮眠の時間を前もって決められる場面で役に立つ
  • 光や温度は、眠気の感じ方がよくなるという結果が出始めた段階
  • それまでは、眠り方を前もって工夫する対策を使い、起きた直後は安全に関わる作業を避けることを勧める

この論文のよいところ

  • 「起きてから」に絞った: 眠り方の工夫ではなく、いつ起こされるか分からない人が使える方法に的を絞って集めています。
  • 身近な方法も研究として並べた: 顔を洗う、音楽を聴く、といったふだんの習慣も、研究があれば対策として取り上げています。
  • 実験の弱いところを、研究ごとに指摘している: 「そもそも寝ぼけが出ていなかった」「仮眠だけの組と比べていない」「ガムをかむこと自体が目を覚ましたのかもしれない」など、結果を読むときの注意を具体的に書いています。
  • 次の研究への道しるべになっている: 寝ぼけが出やすい条件(夜中に起きる・寝不足・長めの仮眠)で試すことなど、研究の組み方の提案があり、著者ら自身が「次の研究への呼びかけ」と位置づけています。

結果の受け止め方

  • 小さな実験室の研究のまとめ: 17本はどれも実験室の研究で、参加者は1本あたり8〜44人です。3本は男性だけの研究でした。
  • 数字をまとめた分析ではない: 研究ごとに条件がばらばらなため、効果の大きさを1つの数字にはまとめていません。
  • 寝ぼけが軽い条件の研究が多い: 昼寝や、ふつうの夜の眠りのあとの研究がほとんどです。夜勤の仮眠のように、寝ぼけが重くなる場面でも同じように効くかは分かっていません。
  • 2015年までの研究: その後の研究は入っていません。運動のように、この時点でまだ試されていなかった方法もあります。

その後の研究とのつながり

この総説の「起きた直後に安全に関わる作業を避ける」「事後の対策の研究が足りない」という問題意識は、その後の研究に引き継がれていきます。

年研究このサイトの記事
2016今朝の総説(起きてから打てる手の研究のまとめ)―
2019Hilditch さんたちの睡眠慣性の総説(原因と対策の全体像)寝起きのボンヤリ頭は徹夜明けより働かない!?
2020起きてすぐの運動の仮説(今朝の総説が「まだ試されていない」とした方法)目は覚めてても、アタマは寝てた!?
2022消防・救急など92人への寝ぼけの調査(現場の声)夜中に呼び出される消防士や救急隊員は、寝ぼけとどう向き合っている?

日常で取り入れるなら

  • コーヒーは仮眠の前に: 研究で使われたのは、コーヒー2〜3杯分(カフェイン150〜200mg)を飲んで、15〜20分の仮眠をとる方法です。起きてから飲むと、効き始めるまでに十数分かかります。
  • 仮眠は短めに: 研究の多くは15〜20分の昼寝でした。長く眠って深い眠りに入ると、寝ぼけは重くなりやすいとされています。
  • 夕方以降は控えめに: カフェインは長く効くので、夜の眠りに響くことがあります。
  • カフェインの量に気をつける: コーヒーを飲み慣れていない方、妊娠中や授乳中の方、持病のある方は、量に気をつけてください。
  • 顔を洗ってすっきりしても、すぐには動き出さない: 顔を洗った実験では、眠気はすぐ軽くなっても、記憶の課題の成績は変わりませんでした。仮眠のあとに運転するなら、起きてから少し時間をおくほうが安心です。

眠りの和声では、雨音や小川の音と、やさしい和音を流せる再生画面もご用意しています。

この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。カフェインのとり方について心配のある方や、日中の強い眠気が続く方は、医師にご相談ください。

この研究の著者・研究室・企業

  • 研究室Siobhan Banks さん(ラストオーサー。論文の当時は南オーストラリア大学 睡眠研究センターに所属。教員ページは現在、アデレード大学の名簿に載っています)
  • 研究室NASA エイムズ研究センター 疲労対策研究室(論文の連絡先の著者 Cassie J. Hilditch さんの、その後の所属。論文の当時は南オーストラリア大学 睡眠研究センターに所属していました)

参考文献

  1. Cassie J. Hilditch, Jillian Dorrian, Siobhan Banks. Time to wake up: reactive countermeasures to sleep inertia. Industrial Health 54(6): 528–541 (2016). doi:10.2486/indhealth.2015-0236(PMC で全文公開)
  2. Mitsuo Hayashi, Akiko Masuda, Tadao Hori. The alerting effects of caffeine, bright light and face washing after a short daytime nap. Clinical Neurophysiology 114(12): 2268–2278 (2003).(本文は購読が必要なため、記事では今朝の総説での紹介の範囲で取り上げています)
  3. L. A. Reyner, J. A. Horne. Suppression of sleepiness in drivers: combination of caffeine with a short nap. Psychophysiology 34(6): 721–725 (1997).(同上)

← コラムの一覧へ