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「寝ている間に脳が掃除されている」は本当なのか!?(1) ― 眠ると脳の掃除が進む?論文「眠りが大人の脳から老廃物を取り除く」を読む

淡い水彩のイラスト。夜の寝室で、ベッドの人が目を閉じて眠っている。その頭から広がる脳の形の白い吹き出しの中で、頭に手ぬぐいを巻いたトラ柄の子猫が、ぞうきんで床をふき、星の形のきらきらしたゴミを掃き出している。上に記事の題名「「寝ている間に脳が掃除されている」は本当なのか!?(1) ― 眠ると脳の掃除が進む?論文「眠りが大人の脳から老廃物を取り除く」を読む」の文字。
イメージイラスト(AI生成)

「寝ている間に、脳の老廃物が洗い流されている」。眠りの大切さを語るとき、よく聞く話です。

ところがここ数年、この話をめぐって、研究者の間で正反対の結果が出て、議論が続いています。そこで、この話のもとになった研究から順に、1本ずつ論文を読んでいくシリーズを始めます。

1回目の今夜は、出発点になった2013年の論文です。

この論文は GIGAZINE「睡眠には脳の老廃物を除去する働きがあることが判明、脳疾患の治療に光」でも紹介されています。

この論文について

  • 題名: Sleep Drives Metabolite Clearance from the Adult Brain(眠りが大人の脳から老廃物を取り除く)
  • 著者: Lulu Xie さん、Hongyi Kang さんら13人。責任著者は Maiken Nedergaard さん。米国のロチェスター大学医療センターと、ニューヨーク大学
  • 掲載: Science 342巻6156号 373–377ページ(2013年10月)。査読を経て掲載された論文です。著者の原稿は PMC で誰でも読めます。
  • 資金: 米国国立衛生研究所(NIH)の神経疾患・脳卒中研究所の研究費
  • 対象: マウスです。人で確かめた研究ではありません。

※実験の細かな手順は、論文の補足資料(Supplementary Materials)に書かれています。補足資料は公開先の自動アクセスの確認で取り出せなかったため、この記事は論文の本文と図の説明をもとにしています。

論文が問題にしていること

なぜ眠ると疲れがとれるのか、なぜ眠らないと頭が働かなくなるのかは、長いあいだ生物学の大きななぞでした。

一方で、脳の細胞のまわりのすき間(細胞の間の液がたまっている空間)には、アルツハイマー病に関わるアミロイドβなど、病気に関わるたんぱく質が漂っています。体のほかの場所では、こうしたものはリンパ管が回収しますが、脳にはふつうのリンパ管がありません。

その代わりに、脳と脊髄をひたしている「脳脊髄液」が、動脈のまわりから脳の中へ入り込み、細胞の間の液と入れ替わりながら、たんぱく質などを運び出している、と考えられていました。この流れは「グリンパティック系」と呼ばれ、著者らのグループが前の年(2012年)から報告してきたものです。

また、細胞の間の液のアミロイドβは、眠っているときより起きているときのほうが多い、という研究がありました。これは「起きている間にたくさん作られるから」と考えられていました。著者らは、もう一つの可能性として、眠っている間に、よく運び出されるからではないか、と考えて調べました。

調べ方と結果

1. 起きると、脳脊髄液がほとんど入らなくなった

マウスの首の後ろ(脳脊髄液がたまっている場所)に、目印を入れる管を付けておきます。頭の骨に小さな窓を開け、二光子顕微鏡という顕微鏡で、光る目印が脳の表面から中へ入っていく様子を、30分間見ました。脳波と筋電図で、眠っているか起きているかも確かめています。

  • 昼(12〜14時)、眠っているマウス: 目印は、動脈のまわりを伝って、脳の中へどんどん入っていきました。
  • 同じマウスを、しっぽにそっと触れて起こしたあと: 色の違う目印を入れ直すと、入り方は約95%少なくなりました(6匹)。

2. 麻酔をかけると、眠っているときと同じくらい入った

起きているときに入りにくいのが、時間帯のせいではないかを確かめるため、別のマウスで、マウスがふだん起きている夜(20〜22時)に調べました。

  • 起きているとき: 目印は脳の中にほとんど入らず、表面の近くにゆっくり届くだけでした。
  • 同じマウスに麻酔(ケタミンとキシラジン)をかけたあと: 目印は動脈のまわりから勢いよく入り、眠っているマウスと同じくらいの速さで脳の中へ広がりました(6匹)。

3. 眠っているときは、細胞のすき間が広かった

なぜ起きているときは入りにくいのでしょうか。著者らは、起きているときは細胞のすき間が狭く、液が通りにくいのではないかと考え、すき間の広さを測りました。脳の中に、ある小さなイオンを少しだけ出し、少し離れた場所でその濃さを測ります。すき間が狭いと、イオンが薄まりにくく、濃く測れる、という方法です。

状態脳(大脳皮質)の中で、すき間が占める割合
眠っているマウス(昼)23.4%
起きているマウス(夜)14.1%
同じマウスで、起きているとき → 麻酔をかけたあと13.6% → 22.7%(10匹)

眠っているときや麻酔中は、起きているときより、すき間が60%以上広くなっていました。一方で、すき間の入り組み方(通り道の曲がりくねり具合)は、どの状態でも変わりませんでした。

4. 眠っているマウスでは、アミロイドβが2倍速く消えた

いよいよ「掃除」です。著者らは、放射性の目印を付けたアミロイドβを、マウスの脳(前頭葉の皮質)に入れました。10分〜4時間後に脳を取り出し、脳に残っている量を測って、どれだけの速さで脳から消えていくかを比べています。調べたのは、自由に動いている起きているマウス、自然に眠っているマウス、麻酔をかけたマウスの3つの組です(合わせて77匹、時点ごとに3〜6匹)。

  • アミロイドβ: 眠っているマウスでは、起きているマウスより2倍速く消えました。眠っているマウスと麻酔をかけたマウスの間に、差はありませんでした。
  • イヌリン(体の中で反応しにくい物質。目印付き): アミロイドβは、血管の壁にある専用の運び出しの仕組みでも脳から出ていきます。そこで、そうした仕組みを使わない物質でも調べました。こちらも、眠っているときや麻酔中は、起きているときより2倍以上速く消えました。

5. ノルアドレナリンの働きを止めると、起きていても入りやすくなった

最後に著者らは、何がすき間の広さを決めているのかを調べました。目をつけたのは、目を覚ました状態を保つ働きをする、ノルアドレナリンです。

  • 起きているマウスに、ノルアドレナリンの働きを受け止める部分をふさぐ薬を、脳脊髄液に入れると、目印の入り方が増え、眠っているときや麻酔中に近くなりました(6匹)。
  • 脳の表面にこの薬をつけると、すき間の割合は 14.3% から 22.6% に広がり、眠っているときや麻酔中と同じくらいになりました。

※顕微鏡で見る実験では、マウスの頭を固定しています。固定のストレスでノルアドレナリンが増えていないかも確かめていて、慣らしたマウスでは増えていませんでした。

著者の考え

著者らは、結果を次のようにまとめています。

  • 眠っているときは、脳の細胞のすき間が60%以上広がる。そのため、脳脊髄液と細胞の間の液がよく入れ替わり、アミロイドβなどが速く運び出される。
  • 麻酔でも同じことが起きたので、すき間の広さを決めているのは時間帯(体内時計)ではなく、眠っているか起きているかの状態そのものだろう。
  • 起きている状態を保つノルアドレナリンが、すき間の広さの調整に関わっているらしい。ただ、どの細胞がすき間を広げているのかは、さらに調べる必要がある。
  • 眠ると疲れがとれるのは、起きている間にたまった老廃物を、脳が片づけやすい状態に切り替わるからかもしれない。

この研究のよいところ

  • いくつもの方法で、同じ問いを確かめている: 脳脊髄液の入り方を顕微鏡で見る、すき間の広さをイオンで測る、目印を付けた物質がどれだけ残っているかを測る、と、性質の違う方法で「眠ると掃除が進む」かを調べています。
  • 時間帯の影響を切り分けようとしている: 眠っているマウスは昼、起きているマウスは夜に測ることになりがちです。そこで、同じ夜の時間帯に麻酔で眠りに近い状態をつくり、時間帯ではなく状態の違いだと確かめています。
  • 同じマウスで比べている: 眠っているとき・起こしたあと、起きているとき・麻酔のあと、と、同じマウスの中で比べる実験を組み込み、マウスごとの違いの影響を減らしています。
  • アミロイドβ以外でも確かめている: アミロイドβには専用の運び出しの仕組みもあるため、反応しにくいイヌリンでも同じ傾向を確かめています。

結果の受け止め方

  • マウスの研究: 人の脳で同じことが起きているかは、この論文では調べていません。
  • 1つの実験のマウスは少なめ: 顕微鏡やすき間の実験は、4〜10匹ほどで比べています。
  • 麻酔を眠りの代わりに使っている部分がある: 麻酔は眠りとよく似た脳波を示しますが、眠りそのものではありません。この点は、のちの研究で大きな論点になっていきます。
  • 「掃除」の測り方: 脳脊髄液の「入り方」は脳の表面近く(深さ0.1mm)で見たもので、「消え方」は、取り出した脳に目印がどれだけ残っていたかで測っています。何をもって「掃除が進んだ」とするかは、このシリーズで読んでいく論文の間で、大きく違ってきます。

日常で取り入れるなら

  • 眠りは、脳にとっても休むだけの時間ではないかもしれない: この研究は、眠っている間に脳が片づけに向いた状態へ切り替わる可能性を示しました。ただ、マウスの研究で、人で「何時間眠れば、どれだけ掃除されるか」が分かったわけではありません。
  • 夜ふかしの言いわけにも、不安の種にもしない: 「寝ないと脳にゴミがたまる」と心配しすぎて、かえって眠れなくなっては本末転倒です。まずは、ふだんの眠りを大事にするところから始めましょう。

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次回は、この話に正反対の結果を出した、2024年の英国の研究を読みます。マウスでは、眠っている間や麻酔中のほうが、起きているときより脳の掃除が遅かった、という論文です。

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この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。眠りや物忘れの悩みが続く場合は、医師にご相談ください。

この研究の著者・研究室・企業

  • 研究室Nedergaard 研究室(責任著者の Maiken Nedergaard さんの研究室。論文の当時はロチェスター大学医療センター。現在はロチェスター大学とコペンハーゲン大学の両方に拠点があります)

参考文献

  1. Lulu Xie, Hongyi Kang, Qiwu Xu, Michael J. Chen, Yonghong Liao, Meenakshisundaram Thiyagarajan, John O'Donnell, Daniel J. Christensen, Charles Nicholson, Jeffrey J. Iliff, Takahiro Takano, Rashid Deane, Maiken Nedergaard. Sleep Drives Metabolite Clearance from the Adult Brain. Science 342(6156): 373–377 (2013). doi:10.1126/science.1241224(PMC で著者の原稿を公開)

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