警報が鳴っても起きられないのは、どんなとき? ― 寝不足・年齢・まわりの音・睡眠薬など、目覚めをじゃまする条件を整理した総説
今朝の研究では、一番深い眠りのさなかに火災警報を鳴らすと、大人150人は600回のうち599回で目を覚まし、部屋の外まで出ていました。目を覚ますまでの中央値は1〜2秒です。
ただ、この実験の参加者は、病気や眠りに影響する薬がなく、耳の聞こえに問題がなく、お酒も飲んでいない大人でした。目覚まし時計で起きられない朝があるように、現実の夜は、いつもこの条件どおりではありません。
今夜は、眠っている人が警報の音で起きられなくなる条件を、それまでの研究から整理した総説を読みます。
この論文について
- 題名: The who, what, where and why of waking to fire alarms: a review(火災警報で目を覚ます ― 誰が、何で、どこで、なぜ:総説)
- 著者: Dorothy Bruck(ヴィクトリア大学 心理学部、オーストラリア・メルボルン)
- 掲載: Fire Safety Journal 36(7): 623–639(2001年)。査読を経て掲載された総説です。
- 資金: 論文の原稿に、資金についての記載はありません。
- 読んだもの: 著者の大学の保存庫で公開されている28ページの原稿です。※原稿の形のため、論文中の表1(警報で起きるかを調べた6つの研究のまとめ)は含まれていませんでした。この記事の数字は本文から取っています。
総説は、新しい実験をするのではなく、それまでに発表された研究を集めて整理する論文です。この総説は、①眠りの研究で調べられてきた「何デシベルの音で目を覚ますか」の研究、②眠っているときの音への反応を変える条件の研究、③実際の煙の警報器で起きるかを調べた研究、④火災で亡くなった人の統計、の4つをまとめています。
眠っていることは、火災の大きな危険になる
総説の冒頭によると、火災の件数は昼のほうが多い一方で、命を落とす危険は夜のほうが高く、住宅火災の死者の約半分は夜の時間帯に出ています。
検視の記録で114人の火災の死者を調べた研究では、亡くなった火災の81%が夜(夜8時〜朝8時)に起き、そのうち86%の人が眠っていました。昼の火災でも、亡くなった人の31%は眠っていたといいます。さらに、眠っていた人の4分の3は、最初にいた部屋から動いていませんでした。目を覚まさなかったか、目を覚ましたときには逃げられなかったと考えられます。
著者は、時刻よりも「眠っていること」のほうが、ずっと強い危険の要因だとまとめています。
健康な大人は、廊下の警報器でも起きていた
まず、実際の煙の警報器を使った研究です。警報器の音は、主に4,000Hz前後の高い音です。寝室のドアを閉め、廊下の警報器を鳴らすと、枕元では51〜68dBほどの大きさになることが、住宅での測定で分かっていました。※この総説の dB は、人の耳の感じ方に合わせて補正した値(dBA)です。
この大きさでも、実験に参加した健康な大人の多くは、すぐに目を覚ましていました。
- 30〜59歳の16人では、廊下の警報器(枕元で60dB)で全員が32秒以内に目を覚ました
- 18〜29歳では、55dBの警報で全員が21秒以内に目を覚ました研究がある
著者は、寝不足でなければ、18歳以上の多くの人は「ふつうの状況」なら55〜60dBの警報で目を覚ますだろう、と見ています。
問題は、その「ふつうの状況」から外れたときです。
起きにくくなる条件
1. 寝不足
著者自身が18〜24歳を調べた研究では、枕元60dBの警報に反応できたのは85%でした(たいていは1分以内)。2回の警報のどちらでも確実に目を覚ますことができなかった2割の人は、試験期間で、実験の前から寝不足だったことが分かりました。
起きている時間が長くなるほど目を覚ましにくくなることは、よく知られています。4時間しか眠らなかった翌日には、眠りからの反応が遅くなったという報告もあります。著者は、寝不足になりやすい10代の若者や交代勤務の人は、ふだんより起きにくいことが多いかもしれない、と書いています。
2. 子ども
眠っている子どもに煙の警報器を鳴らした2つの研究(60dBと89dB)では、子どもは大人よりずっと起きにくく、6〜10歳はそれより上の子より起きにくい傾向でした。著者は、年齢によって深い眠りの量が違うことと関係しているかもしれない、としています。
3. まわりの音
まわりの音が大きいと、起きにくくなります。44dBや53dBの背景の音がある中では、55dBの警報への反応が落ちていました。そのような場合、枕元で少なくとも70dBは必要だという提案があります。寝室にエアコンがあるだけで、50dBほどの背景の音になることがあるそうです。
4. 年齢による聞こえの変化と、音の高さ
年を重ねると、高い音から聞こえにくくなっていきます。警報器の高い音は、ちょうどその音域です。
著者は、起きているときの聞こえの国際規格の値に、眠りの研究から見積もった「起きているときと眠っているときの差」を足すという大まかな計算をしています。その計算では、60歳を超える人の少なくとも25%は、廊下の警報器(枕元で55〜60dB)では目を覚まさないかもしれず、75dBでも70歳を超える人の少なくとも10%は起きないかもしれない、という値になりました。ただし著者自身が、仮定を重ねた見積もりなので、統計的な事実ではなく「問題がありうることを示すもの」として見てほしい、と断っています。
一方で、眠っている耳は、120〜250Hzほどの、話し声に近い低い音域によく反応したという研究もあります。著者は、眠っている耳は話し声の音域と、とても高い「つんざくような」音域の両方に敏感なのかもしれない、と書いています。
5. 眠りの深さと、夜の時間帯
16の研究をまとめた報告では、眠りが浅い段階から深い段階へ進むほど、音で目を覚ましにくくなっていました。深い眠りは夜の前半3分の1に多く、火災の死者が多いのも夜中0時〜朝4時です。
ただ、眠りの段階による違いは小さく、統計的な差が出ないことも多いとされています。著者は、眠りの段階よりも年齢、年齢よりも人による違いのほうが大きいと見ています。
6. 人による違い
音で目を覚ます「起きやすさ」は、同じ人なら夜が変わっても、一晩の中でもよく似ていて、ある段階で起きにくい人は、ほかの段階でも起きにくい傾向でした。それなのに、起きているときの耳のよさとは関係がありませんでした。
人による違いがどこから来るのかは、まだよく分かっていません。総説には、次のような手がかりが挙がっています。
- 女性のほうが音に反応しやすいという古い報告は、その後の研究で確かめられていない
- 昼寝ですぐ眠ってしまう「眠い人」は、そうでない人より、夜の後半に音に反応しにくかった
- うつ病の人は音で目を覚ましやすく、症状がよくなるにつれて目を覚ましにくくなった
- 「よく眠れる人」と「眠りに悩む人」では、目を覚ます音の大きさに差がなかった
7. 音の意味
眠っていても、脳は音を聞き分けています。自分の名前は、他人の名前よりも反応されやすいことが知られています。最も目立つ結果は、一番深い眠りの段階で、「この音に反応してください」と前もって伝えていたときは90%が目を覚ましたのに、伝えていなかったときは25%に下がった、という研究です。
煙の警報器の実験では、前もって知らせても知らせなくても、反応に差はありませんでした。著者は、参加者が警報の音をどちらのときも「大事な音」と受け取っていたからだろう、と見ています。
そのうえで著者は、車の警報や調理家電など、似た電子音がたくさん鳴る環境では、警報の音を聞き分けられなかったり、音に慣れてしまったりするおそれがある、と指摘しています。警報の音は、ほかの電子音と聞き分けやすい独特なものであるべきで、聞き分けが難しいなら、音声の警報も考える価値がある、としています。
8. 睡眠薬とお酒
睡眠薬は、夜中にひとりでに目を覚ます回数を減らすように作られているため、外からの音にも反応しにくくなると考えられます。
- 治療に使う量の睡眠薬では、薬の効き目が一番強いとき(飲んで2時間〜2時間半後)に、目を覚ます音の大きさが偽薬より30dBほど高くなった。飲んで3時間後には元に戻っていた
- 煙の警報器を使った研究では、睡眠薬(トリアゾラム)を飲んで2時間ほど後の深い眠りの中で、78dBの警報を60秒ずつ3回鳴らしても、半分の人が反応しなかった。偽薬の人は全員が目を覚ました
お酒については、火災の死者の統計で、酔っていたことが繰り返し指摘されています。ただ、2001年の時点では、お酒を飲んだときに目を覚ましにくくなるかを直接調べた研究はありませんでした。お酒を飲むと夜の最初の2時間ほどは深い眠りが増えるという研究があり、著者は、特に夜の前半に反応しにくくなるだろうと見ながらも、実際のデータが必要だと書いています。※今朝の研究の論文では、その後の研究として、血中アルコール濃度0.05〜0.08%ほどで大人も警報で起きにくくなるという結果が挙げられていました。
同じように、大麻も深い眠りを増やすという報告があるものの、目を覚ます反応を調べた研究はない、としています。
日本の火災の統計も使われている
総説では、日本の住宅火災で亡くなった3,629人(1983〜1987年)を分析した関沢愛氏の研究も取り上げています。著者がその値をもとに計算し直したところ、次のようになりました。※最初の2つの割合は、著者が一部に仮定を置いて計算し直したものです。
| 亡くなったときの状態 | 死者に占める割合 |
|---|---|
| 眠っていた・酔っていない・6〜65歳・体に不自由がない | 11% |
| 眠っていた・酔っていない・幼い、高齢、寝たきり、病気、障害がある | 22% |
| 眠っていた・酔っていた | 13.5% |
| 起きていた | 53.5% |
人口の大部分を占める「健康で、酔っておらず、眠っていた大人」は、死者の11%にとどまっていました。著者は、実験に参加する健康な大人は、夜の火災で命を落としやすい人たち(幼い子・高齢の人・酔っている人・病気の人)とは違う、と強調しています。
著者の提言
著者は、実験の理想的な条件で健康な大人を起こせた音の大きさを、最低限の基準にすべきではない、と主張しています。そして、次のように提言しています。
- 寝ている人が枕元で耳が耐えられる上限くらい、およそ90dBで警報を聞けるように、寝室そのものに警報器を付ける
- 台所や居間など、火が出やすいほかの部屋にも感知器を付け、警報器どうしを連動させる
当時のオーストラリアでは、廊下に付けるのが標準だったそうです。
結果の受け止め方
- 2001年の総説: 25年ほど前の論文で、その後に新しい研究が積み重なっています。今朝の研究のように、声や低い音の警報を比べる研究も、その後に進みました。
- 高齢の人の数字は見積もり: 60歳を超える人の25%という値は、起きているときの聞こえの規格に、眠りの研究の差を足した計算によるもので、著者自身が「統計的な事実ではない」と断っています。
- 目覚まし時計の研究ではない: 総説が扱っているのは、火事のときに目を覚ますかどうかです。朝の目覚ましにも同じことが言えるかは、この論文では調べていません。下の「日常で取り入れるなら」は、そうした前提での受け止めです。
起きられない朝にも、ヒントがあるのかもしれない
今朝の研究で、健康な大人は一番深い眠りでも警報で目を覚ましていました。それでも起きられない人がいるのは、音の大きさだけでなく、**寝不足、まわりの音、聞こえの変化、薬やお酒、そして「その音が自分にとって大事かどうか」**が重なっているから、というのが総説から見えてくる姿です。
特に、寝不足の2割の学生が警報で確実に起きられなかったという話は、目覚まし時計で起きられない朝にも通じるところがありそうです。また、毎朝同じ電子音を聞いていると「いつもの音」として聞き流してしまう、ということも、総説の「似た音に慣れてしまう」という指摘と重なって見えます。
日常で取り入れるなら
- 寝不足を続けない: 寝不足は、警報でも起きにくくなる条件として挙がっていました
- 寝室にも警報器を、できれば連動させて: 日本でも寝室への設置が義務になっています。(注1)消防庁の案内では、ひとつが火災を感知すると、連動の設定をしたすべての警報器が鳴る「連動型」も紹介されています
- 睡眠薬を飲んでいる家族やお酒を飲んで眠った家族は、起きにくいかもしれない: 警報が鳴ったら声をかけに行く、と決めておくと安心です。睡眠薬は医師の指示どおりに使い、自己判断でやめたり減らしたりしないでください
- 耳の聞こえが気になる家族には: 消防庁の案内では、高齢の方や目・耳の不自由な方に、音や光の出る補助の警報装置を増やすことをすすめています
PR連動型の住宅用火災警報器は、どこか1か所で火災を感知すると、連動させたほかの部屋の警報器も一緒に鳴ります。無線で連動するものなら、配線の工事なしで、寝室・階段・台所などをつなげられます。総説で著者が提言していた「警報器どうしの連動」を、家庭で取り入れられる仕組みです。お使いの家に合うかは、商品の説明でお確かめください。無線で連動する住宅用火災警報器 ›リンク先は Amazon の検索結果です。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。
警報で目を覚ますかどうかは、音そのものだけでなく、聞く人の状態や、その音の意味でも変わるようです。では、毎朝の目覚ましの音は、どんな音がよいのでしょうか。次回は、目覚ましに使っている音と、起きた後のぼんやり(睡眠慣性)との関係を、50人へのアンケートで調べた研究を紹介する予定です。
眠りの和声では、雨音や小川の音と、やさしい和音を流せる再生画面もご用意しています。
この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。睡眠薬や耳の聞こえについては医師にご相談ください。警報器の設置や点検は、お住まいの地域の消防本部・消防署の案内もご確認ください。
注
- 注1: 住宅用火災警報器は、寝室と、寝室がある階の階段の上に付けることが消防法令で定められています(消防庁の案内)。
この研究の著者・研究室・企業
- 研究者Dorothy Bruck 名誉教授(ヴィクトリア大学。睡眠と、緊急時の人の行動を研究しています。論文の当時は同大学 心理学部の准教授・学部長)
参考文献
- Dorothy Bruck. The who, what, where and why of waking to fire alarms: a review. Fire Safety Journal 36(7): 623–639 (2001). doi:10.1016/S0379-7112(01)00025-X(ヴィクトリア大学の保存庫で公開されている原稿)
- 総務省消防庁 予防課. 住宅用火災警報器Q&A(2026年10月22日閲覧)