最強の目覚まし時計は警報装置!?火災警報を鳴らすと一番深い眠りのさなかでも大人150人のほぼ全員が1〜2秒で目を覚ました
前回の研究では、眠っている人の鼻に香りを数秒ずつ届けても、脳が刺激を受け取った印(K複合)は増えませんでした。眠ってしまえば、においは脳をほとんど揺さぶらないようです。
では、音はどうでしょうか。眠っている人を起こすための音といえば、火災のときの警報音です。非常ベルが鳴れば、深く眠っていても目は覚めるのでしょうか。
今朝は、一番深い眠りのさなかに火災警報を鳴らし、目を覚ますまでの秒数と、寝室から出るまでの秒数を測った研究を読みます。
この論文について
- 題名: Optimizing smoke alarm signals: Testing the effectiveness of children’s smoke alarms for sleeping adults(煙の警報器の音を最適化する ― 子ども向けの警報器は、眠っている大人にも効くのか)
- 著者: Gary A. Smith、Sandhya Kistamgari、Mark Splaingard(ネイションワイド小児病院 アビゲイル・ウェクスナー研究所 傷害研究・政策センターほか、アメリカ・オハイオ州)
- 掲載: Injury Epidemiology 7: 51(2020年)。査読を経て掲載された論文です。
- 資金: アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の傷害予防センター。資金の出し手は研究の計画・分析・執筆に関わっていないとされ、利益相反はないとされています。
研究の背景: 子どもは、高い警報音で起きにくい
論文の冒頭によると、眠っているときの火災の死亡率は起きているときの3倍とされ、住宅火災で亡くなる人の約半分は、夜に眠っているあいだに亡くなっています。(注1)
アメリカの多くの家にある警報器は、「ピーッ」という高い音(この研究では約3,200Hz)で鳴ります。(注2)この音で大人の多くは目を覚ましますが、子どもは目を覚ましにくいことが、これまでの研究でくり返し示されてきました。
研究チームはこれまで、5〜12歳の子どもで実験を重ね、子どもを起こしやすい音を探してきました。その結果、女性の声・男性の声・低い音の警報は、高い音より子どもを起こしやすいと分かっていました。
ただ、子ども用と大人用に別々の警報器を付けるのは現実的ではありません。そこで今回は、子どもに効いた警報音が、大人にも効くのかを確かめました。
どうやって調べたのか
参加者
20〜49歳の大人を、病院のメールやフェイスブックで募りました。眠りに影響する病気や薬がない人、耳の聞こえに問題がない人です。最初の夜に聞こえの検査も受けています。
199人が参加を申し込み、49人が途中でやめました(眠れなかった40人、一番深い眠りに入らなかった5人、警報が気になった2人、電極を付ける皮膚の準備で軽い反応が出た2人)。最後まで参加したのは150人で、年齢の中央値は30歳、女性が101人(67.3%)でした。
4つの警報音
| 警報音 | 中身 |
|---|---|
| 女性の声 | 「火事だ!火事だ!起きて!ベッドから出て!部屋から出て!」という英語の呼びかけ |
| 男性の声 | 同じ呼びかけを男性の声で |
| 低い音 | 500Hz の「ブー」という音。アメリカでは2014年から、寝る部屋の警報の標準になっています |
| 高い音 | 約3,200Hz の「ピー」という音。今も多くの家にある型です |
どの音も、煙の警報器くらいの大きさの小さなスピーカーから、枕元で85dBになるように鳴らしました。寝室は、ふつうの家の部屋に似せて整えてあります。
進め方
- 参加者は、眠る前に「避難の手順」を教わります。警報で目が覚めたら、ベッドを出て寝室のドアまで歩き、部屋の外に出る、というものです。
- 眠っているあいだは、脳波・目の動き・あごの筋肉の動きを記録し、暗いところでも映る映像で見守ります。
- 脳波で一番深い眠りに入ったことを確かめ、そのまま5分たったところで警報を鳴らします。ここで使っているのは古い分け方の「ステージ4」で、今の分け方では深いノンレム睡眠(N3)の中でも、特に深いところにあたります。眠りの中でいちばん起きにくい段階なので、ここが選ばれました。
- 一晩に2回(1回目と2回目の眠りの周期で)、別々の警報を鳴らします。6日以上あけた2晩で、一人が4つの警報すべてを聞きます。鳴らす順番は、4通りの組み合わせから割り当てました。
- 測ったのは、警報が鳴ってから目を覚ますまでの秒数(脳波と動きで判定)と、寝室のドアを開けるまでの秒数です。5分たっても目を覚まさなければ、スタッフが起こします。
この研究のよいところ
- 同じ人が4つの警報を聞いている: 音で目を覚ますときの「起きやすさ」は、人によって大きく違う一方で、同じ人なら晩が変わっても安定しているとされます。一人が4つすべてを聞くことで、人による違いを差し引いて比べられます。
- 眠りの段階を脳波で確かめてから鳴らしている: 起きやすさは眠りの段階で変わるため、全員が同じ「一番深い眠り」のところで比べています。
- 「目を覚ます」だけでなく「部屋から出る」まで測っている: 火事のときは、起きるだけでなく逃げることが大切だからです。
- 判定を、警報の種類を伏せて確かめている: 目を覚ました時刻は睡眠検査の技師が判定し、睡眠医療の専門医が、どの警報かを知らないまま見直しています。食い違いはありませんでした。
分かったこと
1. 600回のうち599回で、目を覚まして部屋から出た
150人×4つの警報で、合わせて600回の警報を鳴らしました。そのうち**599回(99.8%)**で、参加者は目を覚まし、寝室のドアまで出ていました。
目を覚まさなかった1回は、47歳の男性が高い音の警報を聞いたときです。この男性も、ほかの3つの警報では目を覚まして部屋から出ています。
2. 目を覚ますまでは1〜2秒、部屋を出るまでは9〜12秒
| 警報音 | 目を覚ますまで(中央値) | 部屋を出るまで(中央値) |
|---|---|---|
| 女性の声 | 1秒 | 9秒 |
| 男性の声 | 1秒 | 9秒 |
| 低い音 | 1秒 | 10秒 |
| 高い音 | 2秒 | 12秒 |
統計では、女性の声・男性の声・低い音のほうが、高い音より目を覚ますのも部屋を出るのも速い、という差が出ています。一方、その3つのあいだには、部屋を出るまでの秒数で女性の声が低い音より少し速かったことを除いて、はっきりした差はありませんでした。
ただし、著者ら自身が、差は小さく、実際の火災の場面で意味があるほどの違いではないと書いています。大人にとっては、4つの警報はどれもよく効いていた、というのが論文の結論です。
年齢(20代・30代・40代)や男女で分けても、目を覚ますまでの中央値はどれも1〜2秒でした。
3. 子どもでは、結果が大きく違っていた
論文では、同じチームが5〜12歳の子どもで行った過去の研究の値と並べています。
| 警報音 | 目を覚ますまで(子ども) | 目を覚ますまで(大人) | 部屋を出るまで(子ども) | 部屋を出るまで(大人) |
|---|---|---|---|---|
| 女性の声 | 4秒 | 1秒 | 24秒 | 9秒 |
| 低い音 | 4秒 | 1秒 | 41.5秒 | 10秒 |
| 高い音 | 300秒より長い | 2秒 | 300秒より長い | 12秒 |
(いずれも中央値。子どもの値は、論文が引用している過去の研究のものです)
大人なら2秒で目を覚ました高い音でも、子どもでは、半分以上の子が5分たっても目を覚まさなかった、ということです。同じ深い眠りでも、子どもは大人よりずっと音で起きにくいことが分かります。
研究チームは、子どもを起こしやすい警報(声や低い音)は大人もきちんと起こせるので、家族みんなで同じ警報器を使えると結論づけています。また、過去の研究で、子どもの名前を呼んだり、母親の声を使ったりしても効き目は変わらなかったことから、ふつうの録音の声で足りるとも書いています。
結果の受け止め方
- 音は、睡眠に強く影響するのかもしれない: 一番深い眠りのさなかでも、大人は警報の音で1〜2秒のうちに目を覚まし、600回のうち599回で部屋の外まで出ていました。眠っていても、音は脳に届き、眠りを大きく動かします。香りの研究では、眠っている人ににおいを届けても脳波の変化は小さかったのと対照的です(詳しくは次の節)。
- お酒を飲んだ後の眠りは調べていない: 著者らは、血中アルコール濃度が0.05〜0.08%ほどになると、大人も警報で起きにくくなるという先行研究を挙げ、「この結果は、どんな条件で眠っている大人にも当てはまるわけではない」と書いています。
- 病気・薬・聞こえの問題がある人は含まれていない: 睡眠時無呼吸などの病気がある人、眠りに影響する薬を使っている人、耳の聞こえに問題がある人は、参加の条件から外れています。
- 65歳以上の人は含まれていない: 著者らは、高齢の人は別の研究で調べているとしています。過去の研究では、高齢の人の起きやすさは若い人と同じか、それ以上とされているそうです。
- 枕元で85dBという条件: 警報はどれも寝室の中で、枕元で85dBになるように鳴らしています。別の部屋の警報器が鳴った場合や、ドアを閉めていた場合は調べていません。
- 実験だと分かっている夜の結果: 参加者は眠る直前に避難の手順を練習し、警報が鳴ることを知ったうえで眠っています。著者らも、練習が部屋を出るまでの秒数に影響したかもしれない、と書いています。慣らしのための夜も設けていません。
音は、睡眠に強く影響するのかもしれない
これまでの香りの研究では、紅茶の香りやヒノキの根の香りで、寝つくまでの時間が短くなるなど、眠りに入るまでのよい影響が確かめられていました。一方、前回の研究では、いわゆるイヤなにおいを眠っている人の鼻に直接届けても、脳波の変化は小さく、数十秒で元に戻っていました。
それに対して警報音は、一番深い眠りのさなかでも、大人を600回のうち599回、目覚めさせています。子どもでも、声や低い音の警報なら、目を覚ますまでの中央値は4秒でした。
前回の研究紹介では、香りは寝つくまでを支えるのに向いている、と受け止めました。今回の結果と合わせると、**「香りは寝つきのサポート、眠ってからは音を整える」**ことが大事なのかもしれません。
眠っているあいだ、音は脳に届き、目覚めにつながりやすい刺激です。だからこそ、眠るための音は、静かで、急に変わらないものがよいのかもしれません。以前紹介したピンクノイズの研究では、60dB の短いピンクノイズを1.25秒ごとに鳴らすと、眠りが安定した後は深い眠りの波がそろって強まり、眠りが途中で浅くなる回数も増えませんでした。ただ、同じ音を寝つく前から鳴らすと、寝つきはかえって遅くなっていました。同じ小さな音でも、鳴らす時期によって、眠りを支える方向にも、じゃまをする方向にも働くようです。
日常で取り入れるなら
150人の結果からうかがえるのは、次のようなことです。
- 寝室に警報器を: 大人は、寝室で鳴った警報なら、深く眠っていても目を覚ましていました。日本では、住宅用火災警報器を寝室と、寝室がある階の階段の上に付けることが、消防法令で定められています。(注3)
- お酒を飲んで眠る夜は、起きにくいかもしれない: この研究では調べていませんが、著者らは飲酒で警報に気づきにくくなるという研究を挙げています
- 子どもは、大人よりずっと起きにくい: 大人が目を覚ましても、子どもが眠ったままのことがあります。警報が鳴ったら、子どもの部屋に声をかけに行く、と家族で決めておくと安心です
PR住宅用火災警報器には、ブザーの音で知らせるものと、音声で知らせるものがあります。消防庁の案内では、寝室と階段に付けるのは煙を感知する「煙式」です。電池で動くものなら、配線の工事をせずに天井や壁に取り付けられます。お使いの家に合うかは、商品の説明でお確かめください。研究で使われた警報器とは違うものです。音声で知らせる煙式の住宅用火災警報器 ›リンク先は Amazon の検索結果です。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。
一番深い眠りでも、大人は警報で目を覚ましました。では、目覚まし時計で起きられない朝があるのは、なぜなのでしょうか。次回は、眠っている人が警報の音で起きられなくなる条件を、それまでの研究から整理した総説を紹介する予定です。
眠りから起こすための警報音があるのなら、眠りを守るための音もきっとあるはず。
眠りの和声では、雨音や小川の音と、やさしい和音を流せる再生画面もご用意しています。
この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。警報器の設置や点検は、お住まいの地域の消防本部・消防署の案内もご確認ください。
注
- 注1: 論文がこの根拠に挙げているのは、アメリカとオーストラリアの研究者の論文です。アメリカでは、全米防火協会(NFPA)の2003〜2007年の集計で、夜11時〜朝7時の火災は住宅火災の20%でしたが、住宅火災の死者の52%はこの時間帯の火災によるものでした(NFPA の調査を報じた記事)。世界全体をまとめた数字は見つけられませんでした。日本では、2023年の住宅火災の死者1,023人のうち、夜10時〜朝6時に出火した火災による死者が363人(約35%)でした(令和6年版 消防白書 資料1-1-30)。アメリカの集計とは時間帯の区切り方が違うため、単純には比べられません。
- 注2: 約3,200Hz の高い音は、論文が「今も多くの家にある型」として挙げているもので、アメリカの話です。日本の住宅用火災警報器の音の高さについては、確かな資料を見つけられませんでした。日本の警報器は「音や音声で」火災を知らせるものとされ(消防庁の案内)、警報音と一緒に「火事です。火事です。」と声で知らせる製品もあります(例: パナソニックの発表では2007年に音声の機能を搭載)。
- 注3: 消防庁の案内をご覧ください。
この研究の著者・研究室・企業
- 研究室Center for Injury Research and Policy(ネイションワイド小児病院 アビゲイル・ウェクスナー研究所の傷害研究・政策センター。子どものけがの予防を研究しています)
- 研究者Gary A. Smith 博士(論文の責任著者。センターの創設者で所長。オハイオ州立大学 小児科・救急医学・疫学の教授)
参考文献
- Gary A. Smith, Sandhya Kistamgari, Mark Splaingard. Optimizing smoke alarm signals: Testing the effectiveness of children’s smoke alarms for sleeping adults. Injury Epidemiology 7: 51 (2020). doi:10.1186/s40621-020-00279-6(PMC7549244)
- 総務省消防庁 予防課. 住宅用火災警報器Q&A(2026年10月22日閲覧)