fortuna眠りの和声

起きてすぐは、頭を使う?体を動かす? ― 徹夜明けの朝に5分の体操と記憶の課題を比べたフランスの研究を読む

深い藍色の夜空に描いたパステル画のイラスト。星の散る中に光る球があり、その中で両腕を伸ばして体を動かす人の姿と、渦を巻く脳の形が並んでいる。上に記事の題名「起きてすぐは、頭を使う?体を動かす? ― 徹夜明けの朝に5分の体操と記憶の課題を比べたフランスの研究を読む」
イメージイラスト(AI生成)

今朝の記事では、スヌーズで少しずつ起きると、寝起きの反応がかえって遅いままだった研究を読みました。では、目が覚めたあと、寝ぼけた頭を早くしゃんとさせるには、何をすればよいのでしょうか。

コーヒーを飲む、顔を洗う、明るい光を浴びる。いろいろな方法が試されてきたことは睡眠慣性の総説でも読みましたが、今夜の論文によれば、起きてから最初の15分のうちに寝ぼけをはっきり減らせた方法は、まだほとんど見つかっていないそうです。

今夜は、起きてすぐの5分間に「頭を使う」のと「体を動かす」のとで、寝ぼけの抜け方が変わるかを比べた研究を読みます。

この論文について

  • 題名: Evaluate the effectiveness of cognitive stimulation and physiological dynamization on sleep inertia(認知刺激と生理的な活性化の、睡眠慣性への効果を評価する)
  • 著者: Vincent Beauchamps さん、Fabien Sauvet さん(パリ・シテ大学 VIFASOM/フランス軍生物医学研究所)、Stanislas Boyer さん、Federico Nemmi さん(Human Design Group)、Florence Buratto さん(エアバスの民間機部門 運航・訓練方針部)
  • 掲載: Frontiers in Physiology(2026年)。査読を経て掲載された論文で、誰でも全文を読めます。
  • 資金と利害: 資金は、エアバスと、フランス国防省の装備総局(DGA)から出ています。著者のうち1人はエアバスの社員、2人は人間工学のコンサルティング会社 Human Design Group の社員です。論文には、資金を出した側は研究の計画・データの収集と分析・解釈・執筆・投稿の判断に関わっていない、と書かれています。

「睡眠慣性」は、起きた直後のしばらくの間、頭がぼんやりして、反応や判断がにぶくなる状態のことです。著者らは、パイロットや救急隊員のように、起こされて数分のうちに大事な仕事をしなければならない人のための対策として、この研究をしています。

どうやって調べたのか

参加者

45歳未満の健康な大人42人(女性18人・男性24人、平均33.5歳)が参加しました。眠りの病気がある人、ふだんから日中の眠気が強い人、ふだんの寝床にいる時間が6時間に満たない人、極端な朝型・夜型の人は、あらかじめ除いています。

参加者は、性別と年齢がかたよらないようにしながら、くじ引きのような方法で3つの組(1組14人)に分けられました。

起きてすぐの5分間にすること

3つの組とも、研究者に起こされ、部屋は500ルクスの白い明かりに切り替えられました。そのあとの5分間に、組ごとに次のことをしました。研究者が部屋に残り、決められたとおりに行っているかを見ています。

組起きてすぐの5分間
対照の組机の前に座り、画面の指示に従って、ときどきスペースキーを押す
頭を使う組机の前に座り、画面に1つずつ出る数字を覚えて打ち込む課題(数字が2〜6桁。正解すると1桁増え、間違えると1桁減る)
体を動かす組呼吸と体操(下の手順)

体を動かす組の手順は、フランス軍のメンタル準備の訓練で、眠りや仮眠、リラックスのあとに体を起こし直す方法として、軍の人たちに勧められているものです。

  1. ベッドに座って、元気づける呼吸を10回(吸う・止める・強く吐く、の3拍子。30秒)
  2. 首をいろいろな方向に10回動かす(30秒)
  3. 肩・腕・手首を、それぞれ10回ずつ回す(1分)
  4. 立ち上がって、呼吸を10回、首を10回、肩・腕・手首を10回ずつ(2分)
  5. 浅めのスクワットを10回。1回ごとに、3拍子の呼吸を1回はさむ(1分)

この組の人は、実験の8日前に研究スタッフと手順を覚え、その後の1週間、毎朝ひとりで練習してから実験に臨みました。

2種類の朝

参加者は睡眠実験室に泊まり、2種類の朝を過ごしました。

朝前の夜実際に眠れた時間(平均)
ふつうの朝22時から7時まで、9時間寝床に8.1時間
徹夜明けの朝一晩眠らずに長く起き続けたあと(論文では44時間)、4時から7時までの3時間だけ寝床に2.8時間

起こされたときの眠りの段階も、2種類の朝で違っていました。ふつうの朝は、ふつうの浅い眠り(N2)から起こされた人が47.5%、レム睡眠から32.5%、7時の時点で自分で起きていた人が20%でした。徹夜明けの朝は、深い眠り(N3)から起こされた人が35.7%といちばん多く、自分で起きていたのは2人だけでした。深い眠りから起こされると、寝ぼけは強くなりやすいとされています。

測ったこと

起きてから5分後・20分後・35分後・40分後・55分後に、次の3つを測りました。

  • 反応の速さ: 画面に印が出たら、できるだけ早くボタンを押す課題(3分間)。反応にかかった時間と、0.5秒以上かかった「見落とし」の回数
  • 眠気: 「1 とても目がさえている」から「9 とても眠く、眠気と戦っている」までの9段階で、自分で答える
  • 寝ぼけの質問票: 「ベッドから出るのがつらかった」「考えるのが遅い気がする」「物にぶつかったり、物を落としたりした」など14の質問に「はい/いいえ」で答え、「はい」の数を数える

起きる前の基準の値は取っていないため、起きてから55分後の値を「寝ぼけがほぼ抜けたときの値」として基準にし、それより前の値がどれだけ悪いかで、寝ぼけの抜け方を見ています。

研究を始める前に決めておいた、いちばん大事な比べどころは、徹夜明けの朝の、起きてから20分後の反応の速さです。

結果

徹夜明けの朝: 体を動かした組は、反応の遅れが見られなかった

徹夜明けの朝、対照の組は、起きてすぐの反応が遅れていました。55分後とくらべて、起きて5分後は39ミリ秒、15分後は49ミリ秒遅かったのです。

体を動かした組は、起きてからどの時点でも、55分後とくらべてはっきりした遅れが見られませんでした。対照の組とくらべると、5分後も15分後も49ミリ秒速く反応していました。

頭を使った組も、対照の組よりは速く反応していました(5分後に20ミリ秒、15分後に31ミリ秒)。ただし、55分後とくらべると、5分後・20分後にはまだ遅れが残っていました。

※論文の方法の節では、測ったのは起きて5分・20分・35分・40分・55分後とされていますが、結果の節では「15分後」と書かれている箇所があります。ここでは結果の節の書き方のまま載せています。

見落としの回数

徹夜明けの朝、対照の組は、55分後とくらべて、起きて5分後の見落としが2.0回、20分後が1.3回多くなっていました。頭を使った組と体を動かした組では、55分後との差ははっきりしませんでした。

起きて5分後の見落としは、体を動かした組の方が対照の組より少なく、その差は徹夜明けの朝で2.3回、ふつうの朝でも1.1回でした。

眠気の自己評価

ふつうの朝は、3つの組とも、眠気の点数が9段階のうち4未満で、あまり眠くありませんでした。

徹夜明けの朝、起きて35分後の眠気は、体を動かした組がいちばん低く、頭を使った組より0.6点、対照の組より1.0点低くなっていました。

おもしろいのは、体を動かした組の中だけを見ると、起きて5分後と15分後の眠気が、55分後より高かったことです(0.8点・0.5点)。反応の速さはもう戻っていたのに、「眠い」という感じは少し残っていた、ということになります。

※9段階で7以上の眠気は、欧州航空安全機関(EASA)などが仕事の安全にかかわる眠気の目安としている値です。この研究では、7以上になった人はいませんでした。

寝ぼけの質問票

14の質問のうち「はい」の数は、ふつうの朝が平均0.9個、徹夜明けの朝が4.2個でした。

徹夜明けの朝、対照の組と頭を使った組では、起きて5分後・20分後の「はい」の数が、55分後より多くなっていました。体を動かした組では、時間による変化がはっきりせず、5分後・15分後の「はい」の数は対照の組より少なくなっていました。

ふつうの朝は、組の差が小さかった

ふつうに9時間眠った朝は、3つの組の違いはわずかでした。反応の速さでは、頭を使った組が起きて5分後・15分後に55分後より遅く(40ミリ秒・30ミリ秒)、対照の組は35分後に遅れが見られる、といった程度です。体を動かした組では、55分後との差は見られませんでした。

著者の考え

著者らは、いちばん大事な比べどころ(徹夜明けの朝の20分後の反応の速さ)で効果があったと言えるのは、体を動かした組だけだったとしています。呼吸と体を動かす体操で、起きてから最初の15分の寝ぼけが、本人の感じ方と、反応の速さの両方で減ることを、初めて示したと書いています。

これまでにも、起きてすぐ運動をすると眠気が減るという研究はありました。たとえば、起きてすぐ30秒だけ運動した研究では、眠気の自己評価は下がったものの、課題の成績には差が出ていませんでした。今回は、運動を5分間に延ばし、呼吸と組み合わせたことで、反応の速さにも差が出た、という位置づけです。

体を動かす方がよかった理由として、著者らは次のように考えています。

  • 運動は、脳全体の血流と代謝を高め、目覚めにかかわるホルモン(コルチゾール)を増やすなど、脳全体に働きかける
  • 数字を覚える課題は、その課題に使う脳の一部の回路だけを働かせるのかもしれない

ただし、これはまだ考えの段階で、脳波や脳の画像で確かめる必要がある、と書いています。

また、寝ぼけの抜け方は起きて35分ごろで落ち着いていたこと、徹夜明けの朝は55分たっても、ふつうの朝より眠気が強いままだったことにも触れています。

この研究のよいところ

  • 2種類の朝で比べている: ふつうに眠った朝と、徹夜明けに短く眠った朝の両方で同じ方法を試し、効果がどんな朝に出やすいかを見ています。
  • 組の分け方を工夫している: 性別と年齢で層に分けたうえで、コンピューターで作った順番で組を割り当てています。
  • 体の反応と本人の感じ方の両方を測っている: 反応の速さ・見落としという数字と、眠気・寝ぼけの質問票という自己評価を、起きてから55分まで5回ずつ記録しています。
  • 眠りを脳波で確かめている: 実際に眠れた時間や、起こされたときの眠りの段階を睡眠ポリグラフで測り、2人の技師がそれぞれ判定しています。
  • 道具の要らない、短い手順: 体を動かす手順は5分で終わり、特別な道具が要りません。手順も論文に具体的に書かれています。
  • 限界を自分たちで詳しく書いている: 下の受け止め方の多くは、著者ら自身が論文の限界として挙げているものです。

結果の受け止め方

  • 1組14人の、探索的な研究: 人数を前もって計算しておらず、著者らは「探索的な研究」としています。体を動かした組で寝ぼけがまったく無かったのか、人数が少なくて差が見えなかっただけなのかは、区別できないとしています。
  • 効果がはっきりしたのは、徹夜明けの朝: ふつうに眠った朝は、組の違いがわずかでした。ふだんの朝に同じだけの差が出るかは、この研究からは分かりません。
  • だれがどの組かを、みんなが知っていた: 体操をしているか、数字を覚えているかは見れば分かるので、参加者にも研究者にも、分析した著者にも組が分かっていました。「効くはずだ」という期待が、特に眠気などの自己評価に影響した可能性を、著者らも挙げています。
  • 練習の差: 体を動かした組は、実験の前に1週間、毎朝手順を練習していました。ほかの2つの組にはこうした準備はありません。
  • 体操の強さは測っていない: 心拍などで運動の強さを記録していないため、どのくらいの強さがよいのかは分かりません。
  • 基準は55分後の値: 起きる前の値を取っていないため、55分後に本当にふだんの状態へ戻っていたかは分かりません。
  • 反応の速さの課題は、実際の仕事とは違う: 著者らは、パイロットなどの実際の仕事に近い課題で確かめる必要がある、としています。
  • 論文の記載にいくつか揺れがある: 測った時点(20分後と15分後)や、反応の課題の長さ(3分と5分)などで、方法の節と結果の節の書き方がそろっていない箇所があります。
  • 企業の関わり: 資金の一部はエアバスから出ていて、エアバスの社員が研究の発案と監修に加わっています。論文では、資金を出した側は研究の計画や分析には関わっていないとされています。航空の現場で使える方法を探すという目的が、研究の問いの立て方に表れています。

日常で取り入れるなら

  • 眠りが足りなかった朝に、試してみる価値はありそう: 効果がはっきりしたのは、徹夜明けに3時間だけ眠った朝でした。夜ふかしや夜中の用事で眠りが短かった朝に、起きてすぐ、ゆっくり呼吸をして首や肩を回してみるのは、手軽に試せる工夫です。
  • 無理のない範囲で: 研究の参加者は、45歳未満の健康な人たちでした。スクワットは浅めのものでしたが、膝や腰に不安のある方は、座ったまま首や肩を回すところまでにするなど、体の具合に合わせてください。起きてすぐは立ちくらみが起きることもあるので、急に立ち上がらないようにしましょう。
  • 「眠い」が残っていても、頭は戻ってきているかもしれない: 体を動かした組は、反応の速さは早く戻っていたのに、眠気の感じ方は少し残っていました。逆に言えば、眠気の感じ方だけで、頭がどのくらい働いているかは判断しにくいということでもあります。
  • 前の日の過ごし方も: 前の日によく体を動かした人ほど、翌朝すっきり起きられていた研究は、記事「運動と眠りと朝ごはんがあれば遺伝を超えられる!?「スッキリ起きられるか」を833人で調べた研究を読む」で読みました。

PRこの研究では体操の強さを測っていませんでしたが、自分の毎日の体の動きと眠りを記録してみるなら、手首につける活動量計が手軽です。Xiaomi Smart Band 10 は、1.72インチの有機ELの大画面に、最大21日間持つバッテリーを組み合わせたスマートバンド。歩数や150種類以上の運動モードの記録、心拍数の測定に加え、入眠・覚醒の検出精度を高めた睡眠モニタリングで、毎日・毎週・毎月の眠りの記録を残せます。手首を振動で知らせる目覚ましにも対応しています。Xiaomi Smart Band 10 ›リンク先は Amazon の商品ページです。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。

PR研究の体操は道具なしでできるものですが、ベッドの脇で首や肩を回したり、浅いスクワットをしたりするときに、床に1枚敷いておくと足もとが落ち着きます。厚みや素材、色の違うさまざまなストレッチマットがあり、丸めてしまっておけるものも多くあります。ストレッチマット ›リンク先は Amazon の検索結果です。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。

眠りの和声では、雨音や小川の音と、やさしい和音を流せる再生画面もご用意しています。

この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。持病のある方や、運動を控えるように言われている方は、体を動かす前に医師にご相談ください。日中の強い眠気が続く場合も、医師にご相談ください。

この研究の著者・研究室・企業

  • 研究室VIFASOM(睡眠・覚醒・疲労と公衆衛生)(論文の連絡先の著者 Vincent Beauchamps さんの所属。パリ・シテ大学の研究室で、パリのオテル・デュー病院の睡眠・覚醒センターに置かれています。研究室の独自のページが見つからなかったため、センターのページにリンクしています)
  • 研究機関フランス軍生物医学研究所(IRBA)(フランス軍の衛生部門の研究機関。著者2人が所属しています)
  • 企業Human Design Group(フランスの、人間工学・ヒューマンファクター・UX デザインのコンサルティング会社。著者2人が所属しています)
  • 上場企業Airbus SE(パリ・フランクフルト・スペインの各証券取引所、銘柄コード AIR)。研究に資金を出し、民間機部門の社員がラストオーサーとして加わっています

上場企業の記載は研究の体制をお伝えするためのもので、投資を勧めるものではありません。

参考文献

  1. Vincent Beauchamps, Fabien Sauvet, Stanislas Boyer, Federico Nemmi, Florence Buratto. Evaluate the effectiveness of cognitive stimulation and physiological dynamization on sleep inertia. Frontiers in Physiology (2026). doi:10.3389/fphys.2026.1855408(PMC で全文公開)

← コラムの一覧へ