純正律の和音はなぜ澄んで聞こえるのか ― 「うなり」と「倍音のそろい方」を、250人あまりの実験で読む
眠りの和声で流れている和音は、**純正律(じゅんせいりつ)**という方法で調律しています。サイトのよくある質問では「平均律よりうなりが少なく、澄んだ響きになります」と説明してきました。
では、和音が心地よく聞こえる理由は、本当に「うなりが少ないから」なのでしょうか。今夜は、この問いを250人あまりの聞き比べで調べた研究を手がかりに、整数比・倍音・うなりの関係をゆっくり見ていきます。
まずは「うなり」から
高さがほんの少しだけ違う2つの音を同時に鳴らすと、音が「ワーン、ワーン」と大きくなったり小さくなったりして聞こえます。これがうなりです。
2つの音の波は、そろったり打ち消し合ったりをくり返します。そのため、合わさった音の大きさが周期的に揺れます。揺れる回数は、2つの音の周波数の差と同じです。440Hz と 442Hz なら、1秒に2回揺れます。
ゆっくりしたうなりは、ゆらぎのように聞こえます。一方で、1秒に何十回にもなると、ざらざらした「粗さ」として聞こえるようになります。
楽器の音は「倍音」の束
もう一つの大事な点は、楽器や声の音が、一つの高さだけでできていないことです。
たとえば 100Hz の音を楽器で鳴らすと、100Hz のほかに、200Hz・300Hz・400Hz……と、**ちょうど整数倍の高さの音(倍音)**が一緒に鳴っています。耳はこれをまとめて一つの音として聞き、いちばん下の 100Hz を「音の高さ」と感じます。
そのため、2つの音を重ねたときは、それぞれの倍音どうしが近い高さに来ていないかが問題になります。近いけれど同じではない倍音どうしがあると、そこでうなりが生まれるのです。
整数比にすると、倍音がぴったり重なる
純正律では、和音の音どうしを簡単な整数比にします。
- 完全5度(ドとソ)は 3:2
- 長3度(ドとミ)は 5:4
5度を例にすると、下の音の3倍音と、上の音の2倍音が、ちょうど同じ高さになります。長3度なら、下の音の5倍音と、上の音の4倍音が重なります。重なった倍音どうしは周波数の差が0なので、うなりは生まれません。
ふだん耳にするピアノなどの平均律は、1オクターブを12等分した調律です。どの調にも自由に移れる代わりに、5度や3度は整数比から少しずれています。5度はわずかに狭く(約2セント)、長3度は広め(約14セント)です(1セントは半音の100分の1)。
眠りの和声の既定の高さ(基準のラ=432Hz)で、D(レ)の和音を例に計算してみます。
| 重なる倍音 | 平均律 | 純正律 |
|---|---|---|
| 低いレ(約144.2Hz)の3倍音と、ラの2倍音 | 1秒に約0.5回のうなり | 0回 |
| 低いレの5倍音と、ファ♯(10度上)の2倍音 | 1秒に約5.7回のうなり | 0回 |
※ 倍音を含む楽器で鳴らした場合の計算です。実際に聞こえるうなりの強さは、倍音の大きさによって変わります。
5度の差はごくわずかですが、3度では、はっきり数えられるほどのうなりになります。「純正律は澄んで聞こえる」と言われるのは、主にこの差のことです。
研究: 心地よさを決めるのは「うなり」か「倍音のそろい方」か
ここからが今夜の本題です。
和音がなぜ心地よく聞こえるのか(協和)については、昔から2つの説明がありました。
- うなり説: 不協和な和音には、近い倍音どうしのうなりが多い。そのざらつきが不快さのもと
- 調和性説: 協和する和音は、全体の周波数が一つの基本の音の整数倍の並びに近く、まるで一つの音のようにまとまって聞こえる。不協和な和音はその並びから外れている
困ったことに、ふつうの和音では2つの説がほとんど同じ予想をします。協和する和音は、うなりが少なく、しかも整数倍の並びに近いからです。そこでこの研究は、人による好みの違い(個人差)を手がかりに、2つを切り分けました。
この研究について
- 題名:Individual Differences Reveal the Basis of Consonance(個人差から見える、協和の正体)
- 著者:Josh H. McDermott, Andriana J. Lehr, Andrew J. Oxenham(ニューヨーク大学、ミネソタ大学)
- 掲載:Current Biology 20巻 1035〜1041ページ(2010年)。査読付きの学術誌です。著者原稿は PubMed Central で無料で読めます。
どうやって調べたか
参加者はミネソタ大学の学部生で、**2つのグループ(142人と123人)**に分けて、同じ趣旨の実験をくり返しました。
- 和音の聞き比べ: 2音・3音の和音を聞き、とても不快(−3)〜とても心地よい(+3)で評価。協和する和音と不協和な和音の評価の差を、その人の「協和の好みの強さ」としました。和音は、サクソフォン・歌声・合成音などの音色で作っています
- うなりの好み: 少しだけ高さの違う2つの純音(倍音を含まない音)を、両耳に一緒に聞かせる場合と、左右の耳に分けて聞かせる場合で比べました。左右に分けるとうなりはほとんど聞こえなくなりますが、含まれる音の高さは変わりません。この評価の差を「うなりを嫌う度合い」としました
- 調和性の好み: ちょうど整数倍の並びの音と、その高さを少しずらして並びを崩した音を比べました。どちらも、うなりがほとんど出ないように間隔を空けています。この評価の差を「整数倍の並びを好む度合い」としました
各テストは2回ずつ行い、同じ人が2回とも似た結果を出すかも確かめています。
わかったこと
- 平均すると、参加者はうなりのない音と整数倍に並んだ音の両方を好んだ
- ただし、人ごとの差を見ると、整数倍の並びを好む度合いが強い人ほど、協和する和音を強く好んでいた。この関係は、音色を変えても、2つのグループのどちらでも見られた
- 一方、うなりを嫌う度合いは、協和の好みとほとんど関係しなかった(関係は弱く、一貫しなかった)
- うなりの好みと調和性の好みは、互いにほぼ無関係だった(相関は −0.09〜0.17)。2つは別々の好みだと考えられる
- 楽器を弾いてきた年数が長い人ほど、整数倍の並びを好む度合いも、協和の好みも強かった。うなりを嫌う度合いは、楽器の経験とは関係しなかった
著者らは、協和の正体は「うなりの少なさ」よりも、**倍音が一つの整数倍の並びにそろうこと(調和性)**にあると結論しています。音楽を聞き、演奏する経験を通じて、その好みが強まるのではないか、とも述べています。
うなりそのものが不快に感じられやすいことは、この研究でも確かめられています。ただ、それは和音の協和とは別の、もう一つの好みだった、ということです。
研究室のサイト(Example Stimuli from Consonance Study)では、実験に使った音の例を聞くことができます。
この研究から言えないこと
- 実験の和音は、純正律ではなく平均律で作られています。純正律と平均律を聞き比べた研究ではありません。著者らは、平均律の和音でも結果が出たことから、耳が整数倍の並びを見分ける仕組みは「多少のずれは許す、おおまかなもの」なのだろうと述べています。
- 参加者は、西洋の音楽になじんだアメリカの大学生です。ほかの文化や年代でも同じかは、この研究ではわかりません。
- 調べたのは、一つひとつの和音の心地よさです。和音の進行やメロディーの中でどう聞こえるかは、今後の課題とされています。
- 好みどうしの相関(いっしょに強い・弱い傾向)を見た研究で、眠りやリラックスについては何も調べていません。
眠りの和声の和音は何をしているか
研究を読んだうえで、眠りの和声の和音の作りを見直してみると、2つの説の両方に気を配った形になっていました。
- 整数比で鳴らす。 和音の音はすべて、いちばん低い音(ベース)に対する整数比で決めています。たとえば Dの長三和音(進行「静かな湖」の最初の和音)は、ベースのレの 1/2・1・3/2・2・5/2・3倍の6つの音でできています。これは、そのさらに1オクターブ下のレ(約72Hz)の1〜6倍音とまったく同じ並びです。研究のいう「一つの音のようにまとまる」和音の、いちばん素直な形です。
- 一つひとつの音を、倍音の少ない音にする。 各音は、なめらかな正弦波に、ちょうど1オクターブ上の音を弱く(約15%)足しただけです。音の中に、ずれた倍音がありません。
- 2度で隣り合わせない。 音を根音・5度・オクターブ・10度へ広く配置し、近い高さの音どうしが並ばないようにしています。研究で使われた「うなりの出る間隔」(半音の0.75倍・1.5倍)のような近さを作りません。
基準の高さは 432Hz と 440Hz から選べます。どちらを選んでも、和音の中の整数比は同じです。特定の周波数そのものの効果は研究ではっきりしていないので、聞きやすいほうを選んでください。
うなりのない和音は、変化が少なく、少し物足りなく聞こえることもあります。眠りの和声では、音量を呼吸ほどの速さでゆっくり揺らす「揺らぎ」で、その分の動きを足しています。
PRスマートフォンの内蔵スピーカーは、小さな筐体に収める構造上、低い音の再生を苦手とする機種が多くあります。眠りの和声の和音は、いちばん下に約72Hz のレを置き、そこから整数倍に音を積み上げています。土台の低い音までしっかり鳴らせるスピーカーをつなぐと、記事で紹介した「一つの音のようにまとまる」和音の形を、そのまま耳に届けられます。Bluetooth スピーカー ›リンク先は Amazon の検索結果です。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。
この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。眠れない状態が続く場合は、医療機関にご相談ください。
この研究の著者・研究室・企業
- 研究室Laboratory for Computational Audition(McDermott Lab)(マサチューセッツ工科大学。筆頭著者の Josh McDermott 教授の現在の研究室。論文当時はニューヨーク大学)
参考文献
- Josh H. McDermott, Andriana J. Lehr, Andrew J. Oxenham. Individual Differences Reveal the Basis of Consonance. Current Biology 20(11): 1035–1041 (2010).(著者原稿: PMC2885564)
- McDermott Lab(MIT). Example Stimuli from Consonance Study.(実験に使った音の例)