fortuna眠りの和声

朝の首や腰の痛みは、寝姿勢と関係がある? ― 寝室を2晩撮影した53人の研究を読む

やわらかな水彩風の寝室で、大人がベッドに横向きに寝て、長いクッションを抱えてひざの間にはさみ、上側の脚をのせて目を閉じ穏やかに眠っている。上部に記事の題名「朝の首や腰の痛みは、寝姿勢と関係がある? ― 寝室を2晩撮影した53人の研究を読む」
イメージイラスト(AI生成)

朝起きると首が回りにくい。腰が重くて、しばらく動くとやっと楽になる。寝る前はなんともなかったのに、という経験のある人は少なくないと思います。眠っているあいだの何かが、痛みやこわばりにつながっているのでしょうか。

よく疑われるのは、枕やマットレス、そして寝姿勢です。ところが、眠っている人の姿勢を一晩中きちんと記録し、症状のある人とない人で比べた研究は、意外なほど少ないのが現状です。自分の寝姿勢は、本人がいちばん知らないものだからです。

今回は、参加者の寝室にカメラを置き、2晩の寝姿勢を記録して比べた、オーストラリアの研究を読みます。

この論文について

  • 論文:Examining relationships between sleep posture, waking spinal symptoms and quality of sleep: A cross sectional study(寝姿勢・起床時の脊椎の症状・睡眠の質の関係を調べる:横断研究)
  • 著者:Doug Cary、Angela Jacques、Kathy Briffa
  • 所属(論文の記載):カーティン大学 保健科学部(西オーストラリア州)、エスペランス理学療法(同)。筆頭著者は、地元で理学療法の診療所を開いている理学療法士です。
  • 掲載:PLOS ONE 16巻11号(2021年11月)。査読を経て掲載された論文で、誰でも全文を読めます。
  • 訂正:2024年7月に、要旨(Abstract)の「結果」の段落に誤りがあったとして、訂正が出ています。腰の症状のグループの数値の一部が、別の項目の数値と入れ替わっていました。本文の表は訂正前から正しく、この記事の数値も本文の表と訂正後の要旨に合わせています。
  • 研究の位置づけ:ある時点の状態を比べる横断研究です。寝姿勢を変えてもらって効果を確かめる実験ではありません。オーストラリア・ニュージーランドの臨床試験登録(ACTRN12614000708651)に登録されています。
  • 資金と利益相反:オーストラリア政府の研究者育成の奨学金と、大学の論文執筆の助成。著者は、利益相反は無いと申告しています。

どうやって調べたのか

参加者

西オーストラリア州の田舎町エスペランスで、ポスター・ラジオ・新聞広告などを通じて2年半かけて集めた、18〜45歳の53人(女性36人)です。いちばん多かったのは41〜45歳でした。上の年齢を45歳で区切ったのは、年齢とともに進む背骨の変化の影響を減らすためです。

症状によって、次の3つのグループに分けました。

グループ人数条件
首の症状13人(女性10人)起きたときの首の痛み・こわばり・わずらわしさが、0〜10の評価で3以上。月に4回以上あり、起きてから60分以内に軽くなる
腰の症状20人(女性10人)上と同じ条件で、いちばんつらいのが腰
症状なし20人(女性16人)症状がない、または月4回未満・評価が3未満

ひどい変形性関節症・脊柱管狭窄症・逆流性食道炎、妊娠後期の人、睡眠時の呼吸の機器を使っていて姿勢が限られる人などは除いています。

論文が対象にしているのは、首(頸部)と腰です。日本語でいう「肩こり」と重なる部分はありますが、肩そのものは調べていません。

寝姿勢の記録

参加者の寝室に、ベッドの足元と真上から撮る赤外線カメラを2台置き、夜8時から朝8時まで、2晩続けて録画しました。ふだんどおりに眠ってもらい、2晩の平均を分析しています。

録画を見て、頭・胴・脚の向きから、姿勢を次の4つに分けました。1分以上続いた姿勢だけを数えています。

  • あおむけ
  • 支えのある横向き:上側の脚が前に倒れず、背骨がねじれていない横向き
  • ねじれた横向き:上側の太ももが下側より前に出て、背骨がねじれたり反ったりする横向き
  • うつぶせ

論文はこのうち「ねじれた横向き」と「うつぶせ」を、背骨に負担がかかりそうな姿勢(provocative=症状を起こしやすい姿勢)としてまとめています。なお、上側の脚が前に出ていても、枕や掛け布団で太ももが支えられていて背骨がねじれていなかった3人は、「支えのある横向き」に分類し直しています。

あわせて、寝返りの回数と、30分以上同じ姿勢で動かなかった時間(長い不動の時間)を数え、睡眠の質を3つの質問票で答えてもらいました。

分かったこと

1. 首の症状がある人は、「ねじれた姿勢」で過ごす時間が約2倍だった

夜のあいだに、背骨に負担がかかりそうな姿勢(ねじれた横向き+うつぶせ)で過ごした時間です。

症状なし首の症状腰の症状
ねじれた横向き+うつぶせ(分)83.8185.1134.6
床にいた時間に占める割合17.8%36.0%26.9%

数値は中央値です。首の症状のグループは、症状のないグループと比べて統計的に意味のある差がありました。床にいた時間の3分の1以上を、ねじれた姿勢かうつぶせで過ごしていたことになります。

2. 首の症状がある人は、寝返りが多く、ねじれた姿勢のまま長く動かないことも多かった

症状なし首の症状腰の症状
一晩の寝返りの回数(平均)18.3回23.6回22.9回
ねじれた姿勢のまま30分以上動かなかった回数(中央値)0.5回2.0回1.5回

首の症状のグループは、どちらも症状のないグループと比べて意味のある差がありました。

長く同じ姿勢でいるのは、ふつうは「楽な姿勢だから」と考えられがちです。ところが首の症状のある人は、背骨がねじれた姿勢のまま長く過ごすことが多かった。著者らはここから、長く続く姿勢は楽だからではなく、習慣になっているからではないか、と推測しています。寝返りが多いのは、痛む場所の負担を逃がそうとしているためかもしれない、とも述べています。

3. 腰の症状では、はっきりした差は出なかった

腰の症状のグループは、表のとおり、どの数値も症状なしと首の症状のあいだに収まりました。ねじれた姿勢の時間は症状なしの約1.6倍ですが、統計的な差にはわずかに届いていません(p=0.052)。寝返りの回数や、動かなかった時間にも差はありませんでした。

著者らは、人数が少なくて差を見つけきれなかった可能性に加え、症状なしのグループの45%が、直近2週間に軽い腰の痛みを感じていたことを挙げています。腰の痛みはそれだけありふれていて、グループの違いが小さくなったのかもしれません。

4. 症状のある人は、どちらも睡眠の質が低かった

症状なし首の症状腰の症状
睡眠の質(0〜10、大きいほどよい。平均)6.54.84.6
ピッツバーグ睡眠質問票(21点満点、大きいほど悪い。平均)3.27.46.7
不眠の重さの質問票(大きいほど重い。中央値)3.06.010.0

首・腰どちらのグループも、症状なしと比べて意味のある差がありました。ピッツバーグ睡眠質問票は5点を超えると「よく眠れていない人」とされ、首と腰のグループはどちらも平均でこれを超えています。不眠の質問票では、腰のグループは平均で「不眠の手前(境界域)」の範囲、首のグループは「臨床的な不眠ではない」範囲でした。

この研究の限界

著者ら自身が、次の点を限界として挙げています。

  • 横断研究なので、どちらが先かは分からない:ねじれた姿勢で眠るから朝に首が痛むのか、首が痛いからそういう姿勢になるのか、この研究からは区別できません。
  • 人数が少ない:計画では各グループ30人でしたが、集まったのは13〜20人でした。腰の症状で差が出なかったのは、人数が足りなかったせいかもしれません。
  • 症状なしのグループにも、軽い腰の痛みのある人が多かった:上のとおり45%で、グループの違いを小さくした可能性があります。

これに加えて、読む側として次の点にも気をつけたいところです。

  • 18〜45歳だけ:年齢を重ねた人、背骨の病気のある人に当てはまるかは分かりません。
  • ひとつの町で集めた53人:オーストラリアの田舎町で、広告を見て応募した人たちです。寝具や住まいの違う地域で同じ結果になるかは分かりません。
  • 寝具は調べていない:枕の高さやマットレスの硬さは記録しておらず、姿勢との関係は分かりません。
  • 姿勢を変えたら楽になるかは、確かめていない:著者らも、寝姿勢を変える指導の効果は「今後調べる価値がある」としているだけです。

日常で取り入れるなら

この研究から言えるのは、「横向きは悪い」「あおむけで寝れば治る」ということではありません。53人の結果からうかがえるのは、次のようなことです。

  • 朝に首が痛む・こわばる人は、背骨がねじれた横向きやうつぶせで過ごす時間が長い傾向があった
  • 同じ横向きでも、脚がそろっているか、上の脚が前に倒れて背骨がねじれているかで分けて考える必要がある
  • 腰については、はっきりした差は出ていない
  • 朝の症状がある人は、首でも腰でも、睡眠の質が低いと感じていた

興味深いのは、上の脚が前に出ていても、枕や掛け布団で太ももが支えられていれば背骨はねじれていなかった、という観察です。研究で試したわけではありませんが、横向きで眠る人が、ひざの間やおなかの前にクッションを置いて上側の脚をのせるのは、ねじれを減らす工夫として考えやすい方法です。自分の寝姿勢が気になる人は、スマートフォンで寝ている間の様子を撮ってみると、思っていた姿勢と違って驚くかもしれません。

痛みやしびれが強い場合、長く続く場合は、寝姿勢の工夫だけで済ませず、整形外科などで相談してください。

PR横向きで眠るときに、ひざやおなかの前に置いて脚や腕をのせられるのが抱き枕。体に沿う長いもの、U字やL字に曲がって背中側も支えるもの、中材をポリエステルのわたやビーズ、羽根から選べるものなど、形と素材にさまざまな工夫があります。カバーを外して洗えるもの、中材の量を調整できるものも。サイズと中材、お手入れの方法を見比べて選んでください。研究で抱き枕の効果を確かめたわけではありません。抱き枕 ›リンク先は Amazon の検索結果です。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。

姿勢を整えて横になったら、あとは眠りに入る時間です。眠りの和声では、雨音や小川のせせらぎなどの環境音と、やさしい和音を好きな量だけ混ぜて流せます。体の力が抜けていくひとときに、心地よい組み合わせを探してみてください。

この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。首や腰の痛み・しびれが強い場合、長く続く場合、眠れない状態が続く場合は、医療機関にご相談ください。

この研究の著者・研究室・企業

  • 診療所Esperance Physiotherapy(西オーストラリア州エスペランス。筆頭著者の Doug Cary 博士の理学療法の診療所)

参考文献

  1. Doug Cary, Angela Jacques, Kathy Briffa. Examining relationships between sleep posture, waking spinal symptoms and quality of sleep: A cross sectional study. PLOS ONE 16(11): e0260582 (2021). doi:10.1371/journal.pone.0260582
  2. Doug Cary, Angela Jacques, Kathy Briffa. Correction: Examining relationships between sleep posture, waking spinal symptoms and quality of sleep: A cross sectional study. PLOS ONE 19(7): e0306662 (2024). doi:10.1371/journal.pone.0306662

← コラムの一覧へ