fortuna眠りの和声

寝つくまでだけ音を流す ― 脳波で「眠った」を見分けて音を止める仕組みの研究

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寝るときに音を流している人は、こんなことが気になったことはないでしょうか。

  • 雨音がいい人もいれば、ホワイトノイズがいい人もいる。自分にはどれが合っているのだろう
  • 眠った後も音が鳴り続けているのは、かえって眠りの邪魔にならないだろうか

今回紹介するのは、この2つの疑問にそのまま向き合った研究です。その人の状態に合わせて音を選び、脳波から「眠った」と判断したら音を止める、という仕組みを作って試しています。

この研究について

  • 論文:Young-Seok Kweon, Gi-Hwan Shin, Heon-Gyu Kwak「Development of Personalized Sleep Induction System based on Mental States」
  • 公開:arXiv:2212.05669(2022年12月)
  • 段階:脳とコンピューターをつなぐ技術の国際会議「2023 11th IEEE International Winter Conference on Brain-Computer Interface」への投稿論文です。arXiv に置かれているのは投稿時の原稿で、本文は4ページの短い報告です。
  • 著者:韓国・高麗大学校(Korea University)の研究者3人

同じ著者らは、この前の年に「5種類の音のうち、どれで寝つけたか」を比べる研究を発表していて、今回の仕組みはその結果をもとに作られています。前の研究については「雨音とホワイトノイズで寝つきは変わる? 5種類の音を聞き比べた小さな実験」で紹介しています。

何を調べたのか

論文の出発点は、「誰でも眠れる魔法の子守歌は無い」という考えです。人によって眠りに合う音は違うので、その人の状態に合わせて音を選ぶ仕組みが要る、というわけです。

もう1つの出発点が、「寝つくのを助ける音も、眠った後は眠りを保つ邪魔になる」という考えです。論文の考察では、雨音・ホワイトノイズ・単調な刺激が眠りに入るのを助ける可能性に触れたうえで、それらの音は眠った後には眠りを妨げる要因になる、と述べています。そのため、眠ったことを見分けて音を止める部分を作っています。

仕組みの流れは次のとおりです。

  1. 質問紙と簡単なテストで、その人の状態を調べる
  2. 状態に合わせて、5種類の音から1つを選んで流す
  3. 流している間の脳波から、眠ったかどうかを判定する
  4. 眠ったと判定したら、音を止める

どうやって調べたのか

参加者

20人が参加しました。実験の時点で薬を飲んでおらず、神経や耳の病気が無い人たちです。研究は大学の倫理審査の承認を受けています。

その人の状態を調べる3つの方法

  • ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI):この1か月の睡眠の質を答える質問票です。寝つくまでの時間や、夜中に目が覚める回数などを点数にします。
  • ブルネル気分尺度(BRUMS):今の気分(怒り・疲れ・楽しさなど)を答える質問票です。
  • 精神運動覚醒課題(PVT):合図が出たらすぐ反応する簡単なテストで、今の注意力を測ります。

この3つの結果を、音を選ぶ部分に入力します。

5種類の音

音中身
音なし(偽の刺激)音を消した状態。音が要らない人を見分けるため
繰り返しのビープ音512Hz の音。5秒ごとに、2秒間鳴らす
バイノーラルビート左耳に 250Hz、右耳に 256Hz の音を同時に流す
ホワイトノイズ無料で公開されているホワイトノイズの音源(pure noise 3)
雨音YouTube Studio で提供されている雨の音源(Rain Heavy Loud)

音量は、参加者が 40〜45dB の範囲で心地よい大きさを選んでいます。

「眠ったかどうか」の見分け方

ここがこの研究の技術的な中心です。

  • 頭に 64 個の電極を付けて脳波を測ります。
  • 判定には、別の公開データ(健康な人の一晩分の睡眠の脳波 153 件)で事前に学習させた、眠りの段階を判定する仕組みを使います。脳波を30秒ずつ区切って、起きている・ノンレム睡眠・レム睡眠のどれに近いかを判定します。
  • 10分間の脳波から 30秒ごとの判定を20個並べ、それをもとに「この人は眠ったか」を最終的に判定します。
  • 正解として使ったのは、参加者自身の「眠った/眠らなかった」という答えです。

分かったこと

「眠ったかどうか」の判定は、平均 94.7% で当たりました。 1人のデータを除いて学習し、その1人で試すことを人数分繰り返す方法(leave-one-subject-out)で評価しています。

  • 1人あたり5回分のデータがあり、19人中14人は5回とも正しく判定されました。
  • 残る5人は、それぞれ1回だけ外れています。
  • 判定の偏りも考えた指標(マクロ F1 スコア)は、平均 0.921 でした。

また論文は、20人中18人(90%)が眠りに入り、眠らなかったのは1人だけだったと報告しています。残る1人は、電極の接触が悪く脳波の分析から外された人だと考えると、数字が合います(眠った18人+眠らなかった1人+分析から外れた1人=20人)。ただし、外れた1人の結果をどう扱ったかは、論文には書かれていません。

この研究の限界

論文自身が、次の点を今後の課題として挙げています。

  • 参加者が少ない。主張を支えるには人数が足りないので、新しい参加者で実験する予定だとしています。
  • 仕組みが途中で判定している眠りの段階を、専門家による本来の眠りの判定と比べていない。
  • 夜、ベッドで眠るときにも同じ結果になるかを確かめる必要がある。

読む側として、ほかにも次の点に注意が必要です。

  • 音を選ぶ部分の作り方が、論文には具体的に書かれていません。 質問紙やテストの結果から、どのように音を選んだのかは分かりません。
  • 「仕組みのおかげで寝つけた」とは言えません。 仕組みを使わなかった場合や、音をランダムに選んだ場合との比較は示されていません。
  • 1人の参加者は、電極の接触が悪く、脳波の分析から外されています。そのため、判定の評価は19人分です。

この研究の成果は、「眠りを助ける音」の効果そのものよりも、眠ったことを脳波で見分けて音を止める部分の性能を示したことにあります。

日常で取り入れるなら

脳波を測りながら音を止めるのは、家ではなかなかできません。それでも、この研究の考え方は、普段の音の使い方にも生かせます。

  • 自分に合う音を探す:論文の出発点のとおり、合う音は人によって違います。雨音・ホワイトノイズなど、何種類か試してみるのがよさそうです。何も流さないのが合う人もいます(この研究も「音なし」を選択肢に入れています)。
  • 眠ったら止まるようにしておく:眠った後も鳴り続ける音は、眠りの邪魔になりうると論文は述べています。家でできるのは、時間で止まるようにしておくことです。

眠りの和声では、雨音・ピンクノイズなどの環境音や和音の量を自分で調整でき、タイマーを選んでおくと、終わる前の数分間で音が少しずつ消えていきます。「寝つくまでの間だけ鳴らして、そのあとは静かに」という使い方ができます。

PR反対に、何も流さないほうが合う人もいます。周りの物音が気になって眠れないときは、耳栓で静かな環境をつくるという方法もあります。睡眠用の耳栓 ›リンク先は Amazon の検索結果です。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。

この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。眠れない状態が続く場合は、医療機関にご相談ください。

この研究の著者・研究室・企業

  • 研究室論文上研究室の主宰者の名前が入っておらず、推測になりますが、パターン認識・機械学習研究室(高麗大学校。李晟煥〔Seong-Whan Lee〕教授)での研究とみられます。論文の謝辞にある研究費が同研究室の研究課題で、著者らは同じ時期に李教授との共著論文も出しています

参考文献

  1. Young-Seok Kweon, Gi-Hwan Shin, Heon-Gyu Kwak. Development of Personalized Sleep Induction System based on Mental States. arXiv:2212.05669 (2022). 2023 11th IEEE International Winter Conference on Brain-Computer Interface への投稿。
アイマスクをして、オレンジ色の枕で眠る女性
イメージ写真(Burst/Avelino Calvar Martinez)

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