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眠りを見守りながら音を流すヘッドバンドは、寝つきを早めたのか ― Earable の研究を読む

寝る前に音楽や環境音を流していると、「眠った後もずっと鳴っているのは、かえって邪魔にならないだろうか」と気になることがあります。眠りに入ったことが分かって、そのタイミングで音を止めてくれたら理想的です。

今回紹介するのは、まさにそれを目指した研究です。頭に着けたヘッドバンドで眠りの状態を測りながら、寝つくまで音を流し、眠ったと判定したら音を止める。そうした仕組みで、寝つくまでの時間がどう変わったかを調べています。

この研究について

  • 論文:A Large-Scale Study of a Sleep Tracking and Improving Device with Closed-loop and Personalized Real-time Acoustic Stimulation
  • 著者:Anh Nguyen ほか11名(2022年)
  • 公開の段階:論文の公開サイト arXiv に掲載されたもので、arXiv の情報には学術誌の掲載先が書かれていません。査読(専門家による審査)を経ていない段階の報告として読む必要があります。
  • 著者の所属:アメリカの大学(モンタナ大学、コロラド大学ボルダー校)、オックスフォード大学、ベトナムの医科大学などに加えて、**このヘッドバンドを開発している企業(Earable Inc.)**が含まれています。論文には「著者に利益相反はない」と書かれていますが、開発元の関係者による報告であることは、結果を読むうえで覚えておきたい点です。

何を調べたのか

研究の中心は「Earable(イアラブル)」というヘッドバンドです。おでこと耳の上などに乾いた電極が8つあり、脳波などの体の信号を測ります。ほかに、体の動きを測るセンサー、心拍を測る光のセンサー、そして骨伝導スピーカーが2つ付いています。

この研究で大事なのは「閉ループ」と呼ばれる方式です。

  • 開ループ:決めた音を、決めた時間だけ流す(タイマー付きのスピーカーなど)
  • 閉ループ:体の状態を測りながら、その結果に合わせて音を変えたり止めたりする

Earable は、測った信号から眠りの段階をその場で判定し、眠りに入ったと判定したら音を少しずつ消すようになっています。さらに、セッションの最初の20分ほどで眠りに入る気配が十分に見られないときは、流す音楽を自動で別のものに切り替える仕組みもあります。

流す音は、研究者が独自に作ったもので、次の3つを組み合わせています。

  1. 呼吸のガイドの声:一定のペースで呼吸するよう促す
  2. リラックスを促す声:力を抜いて眠りに向かうよう導く
  3. 背景の音楽:最後まで残り、眠りに入ったら消えていく

つまり、雨音やホワイトノイズのような「ただの音」ではなく、声による誘導と音楽を組み合わせたプログラムだという点に注意が必要です。

どうやって調べたのか

睡眠の研究で基準になるのが PSG(睡眠ポリグラフ検査) です。頭や顔に多くの電極を貼り、脳波・目の動き・あごの筋肉の動きなどを一晩記録して、専門の技師が眠りの段階を判定します。

この研究では、2つの研究を行っています。どちらもベトナム睡眠医学会の倫理審査委員会の承認を受けています。

  • 研究 I(測定の正確さ):19〜33歳の155人が、PSG と Earable を同時に着けて一晩眠りました。Earable の信号や眠りの判定が、PSG とどれくらい一致するかを調べています。
  • 研究 II(寝つきへの効果):19〜55歳の305人が参加し、寝つくまでに20分より長くかかる人を対象に、音のありなしで寝つくまでの時間(入眠潜時)を比べています。

研究 II は、主に昼間の昼寝で行われました。部屋を明るくして20分ほど起きていてもらった後、明かりを消して50分間眠ってもらいます。1日目は音なし、2日目以降は音ありで眠ってもらい、日ごとの寝つくまでの時間を比べています。最後の段階では、ヘッドバンドを自宅に持ち帰り、夜の睡眠でも試しています。

分かったこと

測定の正確さ

  • Earable で測った信号と PSG の信号の相関は 0.89
  • Earable による眠りの段階の自動判定は、睡眠技師3人の判定と 87.8% 一致
  • 寝つくまでの時間の推定は、49回中96%で、PSG との差が2.5分以内

寝つくまでの時間

PSG で測った昼寝の実験の結果は、次のとおりです。

実験人数音なし音あり
2日間(1日目なし・2日目あり)166人40.3分16.2分
3日間(1日目なし・2〜3日目あり)28人36.4分14.0分・18.8分
4日間(1〜2日目なし・3〜4日目あり)36人41.2分・38.9分22.1分・19.5分

要旨にある「寝つくまでの時間が24.1分短くなった」という数字は、いちばん人数の多い2日間の実験(40.3分 → 16.2分)の差と一致します。

4日間の実験は、「2日目は場所や機器に慣れたから早く眠れただけではないか」という疑問に答えるためのものです。音なしの2日間はどちらも約40分で、音を流した3日目から約20分に縮んでいます。

Earable だけを使った閉ループの実験でも、昼寝(57人)で 36.6分 → 16.9分、自宅での夜の睡眠(18人)では 41.3分 → 22.3分・26.8分と、寝つくまでの時間が短くなっています。

使い心地

参加者へのアンケートでは、87%以上が「音が気に入った」と答えています。一方で、目覚めたときに「頭が痛くなかった」と答えたのは約69%で、約半数が夜中にヘッドバンドのせいで目が覚めたと答えています。

この研究の限界

結果は印象的ですが、読むときには次の点に気をつけたいところです。

  • 開発元の関係者による、査読前の報告である:前に書いたとおり、著者にはヘッドバンドを開発する企業が含まれています。
  • 「音なし」と「音あり」の順番が固定されている:どの実験も、先に音なし、後に音ありです。著者自身も、「もっと長い間隔を空け、多くの夜で順番をランダムにするのが理想」と限界に挙げています。
  • 偽の音(効果の無いはずの音)との比較が無い:比べているのは「何も流さない日」です。音や声を聞いていること自体の安心感などと、このプログラムならではの効果を、切り分けることはできていません。
  • 参加者の偏り:約3分の2が20〜30代で、出身国にも偏りがあったと、著者が書いています。
  • 自宅での夜の実験は18人:日常に近い条件の結果は、まだ人数が少ないものです。
  • 一部の参加者は、音にパチパチという雑音が聞こえたと報告しています。

日常で取り入れるなら

この研究の仕組みは、専用のヘッドバンドが脳波を見ながら音を変えたり止めたりするものです。スマートフォンやスピーカーで音を流し続けるのとは、条件がまったく違います。この結果を、そのまま「音を流せば20分早く眠れる」と読むことはできません。

それでも、仕組みの考え方には参考になるところがあります。

  • 寝つくまでは、呼吸を整えて力を抜く手助けをする
  • 眠りに入ったら、音は消えていく

脳波を測らなくても、「最初のうちだけ流して、あとは自然に消える」ようにすることはできます。たとえば眠りの和声では、タイマーを選んでおくと、終わる前の数分間で音が少しずつ消えていきます。眠ったことを判定するわけではありませんが、つけっぱなしにならないという点では、同じ方向を向いた工夫です。

PRこの研究でも約半数がヘッドバンドのせいで夜中に目を覚ましていたように、頭や耳に着けたまま眠るものは、着け心地が大切です。耳元で音を聞きたい場合は、横向きでも当たりにくい平たい睡眠用イヤホンや、布のヘッドバンド型のイヤホンがあります。睡眠用のイヤホン・ヘッドバンド型イヤホン ›リンク先は Amazon の検索結果です。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。

この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。眠れない状態が続く場合は、医療機関にご相談ください。

この研究の著者・研究室・企業

  • 研究室Mobile Cyber-physical Intelligence Lab(モンタナ大学。筆頭著者の Anh Nguyen 博士が主宰)
  • 研究室HumanX Lab(ダートマス大学。著者の Tam Vu 教授の現在の研究室。論文当時はコロラド大学ボルダー校)
  • 企業Earable Neuroscience(旧 Earable Inc.。この研究のヘッドバンドを開発し、FRENZ Brainband として販売。Tam Vu 教授が2018年に創業)

参考文献

  1. Anh Nguyen, Galen Pogoncheff, Ban Xuan Dong, Nam Bui, Hoang Truong, Nhat Pham, Linh Nguyen, Hoang Huu Nguyen, Sy Duong-Quy, Sangtae Ha, Tam Vu. A Large-Scale Study of a Sleep Tracking and Improving Device with Closed-loop and Personalized Real-time Acoustic Stimulation. arXiv:2211.02592 (2022).
暗がりの中で、オレンジ色の光に照らされたヘッドホン
イメージ写真(Burst/Ryan Bruce)

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