冬の暗い朝、夜明けの光で起きると眠りは変わる? ― フィンランドの100人が8週間ためした研究を読む
前回の833人の研究では、朝の目覚めのよさと、前の晩の眠り・前の日の運動・朝ごはんとの関係を読みました。そのとき測られていなかったのが、朝の光です。
日本でも、冬になると朝は暗く、目覚ましが鳴ってもまだ夜のようです。そんな朝に、起きる時刻に向けて部屋が少しずつ明るくなったら、眠りの感じ方は変わるのでしょうか。
今朝は、日の出が朝9時台になる冬のフィンランドで、この問いを一般の人100人で調べた研究を読みます。
この論文について
- 題名: Effect of simulated dawn on quality of sleep – a community-based trial(夜明けを模した光が眠りの質に与える効果 ― 地域の一般の人を対象にした試験)
- 著者: Sami Leppämäki、Ybe Meesters、Jari Haukka、Jouko Lönnqvist、Timo Partonen(フィンランド国立公衆衛生研究所、ヘルシンキ大学中央病院、オランダ・フローニンゲン大学病院)
- 掲載: BMC Psychiatry 3: 14(2003年10月27日)。査読を経て掲載された論文です。
- 資金と利害: 研究の一部は、フィリップスの家電・パーソナルケア部門(Philips DAP)から、条件を付けない助成を受けています。研究に使った機器も同社が研究用に作ったものです。論文では、著者の利益相反は「なし」とされています。
どうやって調べたのか
参加者の集め方
フィンランドの住民登録から、18歳以上の1000人を、男女が半々になるように無作為に選び、招待の手紙を送りました。手紙には、眠りの悩みや季節による気分の変化には触れていません。交代勤務をしておらず、過去6か月に入院も薬の服用もなかった人のうち、先に応募した100人が参加しました。
参加者はヘルシンキ周辺と南フィンランド(北緯60〜61度)に住む人たちで、試験は秋と冬の2回に分けて行われました。
| 期間 | 日の出 | 日の入り |
|---|---|---|
| 秋の組: 10月4日〜11月29日 | 7時33分 → 8時53分 | 18時43分 → 15時24分 |
| 冬の組: 1月10日〜3月7日 | 9時16分 → 7時02分 | 15時40分 → 18時02分 |
※矢印は、期間の初日から最終日にかけての変化です。秋の組は日に日に朝が暗くなり、冬の組は日に日に明るくなっていく時期でした。
夜明けの光の機器
使ったのは、フィリップスの「Light wake-up system」の試作品です。光源の前に光を拡げる板があり、起きる時刻に向けて、はじめは1ルクス未満のごく弱い光から、30分かけてまっすぐ明るくなります。
研究の助手が一人ひとりの寝室を訪ねて、次のことを確かめました。
- 寝室を1ルクス未満まで暗くできる
- 機器を枕元の台に、本人の側の目の高さに置ける
- 目からの距離(約30cm)と明るさが、どの寝室でも同じになる
参加者に、ベッドを一緒に使う人はいませんでした。
最初の2日間は慣らしの期間で、1日目は一番明るいところを200ルクスに、2日目は100か300ルクスに変えてもよいとし、そのあとは気に入った明るさで毎日使ってもらいました。参加者が選んだ明るさは、平均214ルクスです。機器は平日の目覚まし時計として使い、週末も同じ時刻に合わせるように求められました。
2週間ずつ、使う・使わないを交互に
試験は8週間です。半分の人は「使う2週間 → 使わない2週間」をくり返し、残りの半分は逆に「使わない2週間」から始めました。一人ひとりが、使った期間と使わなかった期間を比べる形です。
毎朝の眠りの感じ方
毎朝、「フローニンゲン睡眠の質尺度」という質問に答えてもらいました。「昨夜はよく眠れなかったと思う」「夜中に何度か目が覚めた」「今朝起きたとき疲れていた」「起きたとき休まった感じがした」など15の文に「はい/いいえ」で答え、14点満点で数えます。点数が高いほど、眠りの質が悪いと感じていることになります。
※論文によると、眠りが妨げられなかった夜はふつう0〜2点、6〜7点ほどになると眠りが乱れている目安です。
ほかに、始める前に季節による気分の変化の質問票と、朝型・夜型の質問票に答え、「夜明けの光を使うと、どんな気分になると思うか」という期待も7段階で聞いています。
結果
最後まで続けたのは77人
100人のうち94人が試験を始め、記録がすべてそろった77人(女性47人・男性30人、平均35.3歳、18〜70歳)を分析しました。
途中でやめた17人の理由は、外国への旅行が4人、本人や子どもの病気で記録できなかった人が4人、機器がうまく動かなかった人が2人、光で落ち着かなくなった人が1人、理由を言わなかった人が6人です。
77人のうち、季節による気分の落ち込みが少なくとも軽い程度にある人が21人(27.3%)いました。朝型は7人、夜型は16人で、多くはどちらでもない人でした。
使った2週間は、眠りの感じ方が少しずつよくなった
夜明けの光を使っている間は、眠りの質の点数が1日あたり0.19点ずつ、続けてよくなりました(p = 0.001)。
- よくなり始めたのは、使い始めて6日目ごろから
- 2週間の終わりには、平均1.7点よくなった
- 使うのをやめると、よくなった分は続きませんでした
※14点満点で、点数が下がる(よくなる)向きの変化です。参加者の点数は、2週間ごとの平均でおおむね2〜5点で、もともと大きく乱れた眠りの人たちではありませんでした。
人による違いは見つからなかった
明るさの設定、年齢(40歳以上かどうかでも)、性別、秋か冬か、季節による気分の変化の強さ、朝型・夜型、そして始める前の期待は、どれも結果に影響していませんでした。
著者はもともと、季節で気分が落ち込みやすい人や夜型の人ほど効きやすいのでは、と考えていました。ところが、こうした人たちが特に大きくよくなったわけではありませんでした。
使った人の感想
最後まで続けた人のうち35%が、夜明けの光を使って「気分がよくなった」「少しよくなった」と答えました。9.2%は、光のせいだと思う副作用があったと答えています(中身は論文に書かれていません)。
著者の考え
夜明けを模した光は、これまでの研究で、体内時計が夜型の方へずれていくのを防いだり、ひと晩でも夜のメラトニン(眠りに関わるホルモン)が出始める時刻を早めたりすることが報告されています。著者は、こうした体内時計の動きが今回の結果につながったのかもしれない、と書いています。ただし今回はメラトニンを測っていないので、確かめられてはいません。
まとめとして著者は、夜明けの光は冬の日の短さに関わる眠りの乱れを和らげる、安全で、比較的受け入れやすく、効果があるかもしれない方法だとしつつ、よくなった幅は控えめで、特に効きやすい人たちも見つからなかった、と結論しています。
この研究のよいところ
- ふつうの暮らしの人たち: 住民登録から無作為に選んだ人に手紙を送り、眠りの悩みを条件にしないで集めています。著者によれば、夜明けの光の効果を一般の人で調べた、知る限り初めての研究です。
- 毎朝の記録: 眠りの感じ方を思い出して答えるのではなく、8週間、毎朝その日の分を記録しています。
- 一人ひとりが、自分と比べている: 使った期間と使わなかった期間を、同じ人の中で比べています。半分の人は順番を逆にしていて、季節が進むことによる変化と区別できるようにしています。
- 寝室の条件をそろえている: 助手が全員の寝室を訪ねて、暗さ・機器の置き場所・目からの距離・明るさを確かめています。
- 期待の影響も調べている: 「よくなりそう」という期待が結果に影響していないかを、始める前に聞いて分析に入れています。
- 限界を自分たちで書いている: 次の節の点の多くは、著者自身が論文の中で挙げています。
結果の受け止め方
- 比べる「にせの光」がない: 光の研究では、効かないと分かっている光を用意するのが難しく、この研究にも「にせの機器」を使う期間はありません。使っていることが本人に分かるので、期待の影響を完全に除くことはできません(期待は聞いてあり、結果への影響は見られませんでした)。
- 応募した人の傾向: 先に応募した100人なので、夜明けの光に興味や好感のある人が多く集まった可能性がある、と著者は書いています。
- 眠りは本人の感じ方: 脳波や手首の計測器で測ったものではなく、毎朝の質問への答えです。「よく眠れた」と脳波の研究で読んだように、本人の感じ方と機器の数字は同じではありません。また、この質問票はもともと、うつ病の患者さんの眠りを調べるために作られたもので、一般の人にはほかの質問票と比べて確かめる必要がある、と著者は書いています。
- 起きる時刻は人まかせ: 参加者は起きる時刻を自分で決めていて、体内時計に対してどの時刻に光が当たったかはそろえていません。
- 効果は使っている間だけ: やめると続かなかったので、使い続けることが前提になります。
- 20年以上前の研究: 試作品の機器を使った研究で、いま売られている光目覚まし時計で同じ結果になるかは分かりません。冬の朝の暗さも、北緯60度のフィンランドと日本では違います。
日常で取り入れるなら
- 暗い冬の朝に、起きる前から少しずつ明るく: この研究では、起きる時刻までの30分で200ルクスほどまで明るくなる光でした
- すぐに結果を求めない: よくなり始めたのは6日目ごろからでした。1日や2日では分からないかもしれません
- 平日も週末も同じ時刻に: 研究では、週末も平日と同じ時刻に合わせていました
- 寝室はしっかり暗く: 研究では、寝室を1ルクス未満まで暗くできることを確かめてから始めていました。夜の間は暗く、朝だけ明るく、のめりはりです
- 冬の気分の落ち込みがつらい人は、医師に相談を: 季節性の気分の落ち込みには、もっと明るい光(2,500ルクス以上)を使う治療があり、論文の冒頭でも、夜明けの光よりそちらの方が効果が高いとされています
PRこの研究の機器を作ったフィリップスは、いまも光目覚まし時計を作っています。SmartSleep ウェイクアップ ライトは、朝日をヒントに開発された光で、起きる時刻に向けて少しずつ部屋を明るくするベッドサイドライト。夕日をヒントにした光で少しずつ暗くするモード、読書灯・常夜灯としての使い方、アラーム音に切り替えられる FM ラジオも備え、デザイン賞を受賞した見た目でインテリアにもなじみます。研究で使われた試作品とは別の製品です。フィリップス SmartSleep ウェイクアップ ライト HF3519/15 ›リンク先は Amazon の商品ページです。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。
光のほかに、寝起きのぼんやりにはコーヒーのカフェインを思い浮かべる人も多いでしょう。ただ、起きてから飲むコーヒーが効くまでには時間がかかります。今夜は、寝る前に飲んでおき、起きる直前にカフェインが効き始めるように作ったカプセルを、寝不足にした22人で試した研究(Dornbierer ほか 2021)を紹介する予定です。
眠りの和声では、雨音や小川の音と、やさしい和音を流せる再生画面もご用意しています。
この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。眠りの悩みや、冬の気分の落ち込みが続く場合は、医師にご相談ください。
この研究の著者・研究室・企業
- 研究室Timo Partonen さん(ラストオーサー。論文の当時はフィンランド国立公衆衛生研究所。現在は、同研究所を前身とするフィンランド保健福祉研究所〔THL〕の研究教授です)
- 上場企業ロイヤル フィリップス(Koninklijke Philips N.V.)(ユーロネクスト・アムステルダム PHIA、ニューヨーク証券取引所 PHG)。研究の一部を条件を付けない助成で支援し、研究用の機器を作りました。論文の当時の担当は、同社の家電・パーソナルケア部門(Philips DAP)です
上場企業の記載は研究の体制をお伝えするためのもので、投資を勧めるものではありません。
参考文献
- Sami Leppämäki, Ybe Meesters, Jari Haukka, Jouko Lönnqvist, Timo Partonen. Effect of simulated dawn on quality of sleep – a community-based trial. BMC Psychiatry 3: 14 (2003). doi:10.1186/1471-244X-3-14(PMC で全文公開)