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「よく眠れた」は脳波で分かるのか ― 約1500人の睡眠検査と、翌朝の自己評価を突き合わせた研究

朝の光が差し込む寝室で、ベッドの上に起き上がって大きく伸びをする人の水彩風イラスト。そばに脳波を思わせる淡い波線が浮かび、枕元には花とマグカップ。上部に記事の題名「「よく眠れた」は脳波で分かるのか ― 約1500人の睡眠検査と、翌朝の自己評価を突き合わせた研究」
イメージイラスト(AI生成)

睡眠トラッカーのアプリで「深い睡眠が少なかった」と出ていたのに、朝はすっきりしていた。反対に、スコアは良いのに、なんだか休まった気がしない。そんな経験はないでしょうか。

今回は、病院でも使われる本格的な睡眠検査の数値で、翌朝の「よく眠れた」という感覚をどこまで説明できるのか を、高齢の男女約1500人のデータで調べた研究を紹介します。論文の題名は「When a gold standard isn’t so golden(『最も確かな基準』は、それほど確かではなかった)」。題名のとおり、答えは「ほとんど説明できなかった」でした。

この研究について

  • 論文:When a gold standard isn’t so golden: Lack of prediction of subjective sleep quality from sleep polysomnography(最も確かな基準は、それほど確かではなかった:睡眠ポリソムノグラフィーから主観的な睡眠の質を予測できないこと)
  • 著者:Katherine A. Kaplan、Jamie M. Zeitzer ほか(米国の高齢者の大規模な追跡研究 MrOS・SOF の研究グループ)
  • 掲載:Biological Psychology 123巻(2017年)。査読のある学術誌です
  • 対象:米国の地域で暮らす高齢の男性1024人(平均81.1歳)と女性459人(平均82.9歳)

男性と女性は、もともと別々の追跡研究(男性は骨粗しょう症の研究 MrOS、女性は骨折の研究 SOF)の参加者で、睡眠の検査を受けた時期も男性が2009〜2012年、女性が2002〜2004年と異なります。

何を測ったのか

参加者は、自宅で一晩、ポリソムノグラフィー(脳波・目の動き・あごの筋肉・呼吸・血中の酸素などを一晩中記録する睡眠検査)を受けました。睡眠の状態を判定する方法として、もっとも確かな「基準」とされているものです。

そして翌朝、前の晩の眠りを次の2つの質問で、5段階で答えました。

質問5段階の両端
眠りの深さ浅い 〜 深い
休まった感じ落ち着かない 〜 よく休めた

この2つの答えを、次のような 38の項目 でどこまで予測できるかを調べています。

  • 睡眠検査の数値:総睡眠時間、睡眠効率、夜中に目が覚めていた時間、各睡眠段階の割合(深い睡眠を含む)、眠りと目覚めが切り替わった回数、深い睡眠から浅い睡眠へ移った回数、睡眠時無呼吸の指標、消灯・起床の時刻 など
  • ふだんの睡眠:この1か月の睡眠の質の質問票(PSQI)、昼間の眠気、ふだんの睡眠時間
  • 体と心、暮らし:年齢、学歴、健康状態、うつや不安の尺度、薬(睡眠薬・抗うつ薬など)、カフェイン、お酒、たばこ、体格、持病、検査を受けた地域 など

睡眠効率 は、この記事で何度も出てくる言葉です。「布団に入っていた時間のうち、実際に眠っていた時間の割合」のことで、たとえば8時間横になって6時間眠っていれば75%です。この研究の参加者の平均は、男性73.9%、女性74.3%でした。

分析には、多くの項目の中から本当に効いているものを選び出すための機械学習の手法を2種類(ラッソ回帰とランダムフォレスト)使い、男女を分けて同じ分析をしています。

分かったこと

1. 38の項目を全部使っても、「よく眠れた感」の1〜2割しか説明できなかった

いちばん大きな結果はこれです。睡眠検査の数値に、ふだんの睡眠、健康状態、薬、暮らしの項目まで加えた38項目をまとめて使っても、翌朝の答えのばらつきのうち説明できたのは 11〜17%(男性)、12〜15%(女性)にとどまりました。

言いかえると、翌朝の「よく眠れた」「休まった」という感覚の 8割以上は、一般的な睡眠検査の数値などでは説明できない何か で決まっていた、ということです。

2. いちばん効いていたのは「睡眠効率」

その少ない説明の中で、男女どちらでも、2つの質問のどちらでも、いちばん重要だったのは 睡眠効率 でした。ほかに効いていたのは次の項目です。

  • 総睡眠時間(長いほど、評価が高い)
  • 眠りと目覚めが切り替わった回数、深い睡眠から浅い睡眠へ移った回数
  • この1か月の睡眠の質(PSQI)
  • 検査を受けた地域

「夜中に目が覚めていた時間」は、睡眠効率と非常に強く連動していた(相関 −0.88)ため一方の手法では選ばれませんでしたが、睡眠効率を分析から外すと、代わりにいちばん重要な項目になりました。著者は、睡眠効率と切り替わりの回数の結果をあわせて、夜のあいだ眠りが途切れずに続くこと が、眠れた感にとって大切だと述べています。

睡眠効率で参加者を3つに分けると、さらに興味深いことが分かりました。

睡眠効率眠れた感を予測した項目
低い(70.2%未満)睡眠効率、総睡眠時間、年齢、PSQI、認知機能の検査
中くらい(70.2〜81.4%)地域、PSQI だけ
高い(81.4%より上)ほかの項目は何も残らなかった

※ この3分割の分析は男性だけで行われています。

著者は、睡眠効率がおよそ80%を超えると、ほかの37項目のどれも眠れた感の予測に役立たなかったこと、また80%を超えたあたりからは、睡眠効率が上がっても眠れた感の評価は少ししか上がらなかったことを報告しています。

3. 深い睡眠の量は、重要ではなかった

ここが、睡眠トラッカーを使っている人にとってはいちばん意外な点かもしれません。深い睡眠(徐波睡眠)の量は、眠れた感の重要な予測項目にはなりませんでした。

高齢になると深い睡眠が減るので、そのせいで関係が見えなかったのでは、とも考えられます。実際、男性は深い睡眠が一晩の平均6.7%しかありませんでした。しかし女性は平均20.8%と十分な量があり、それでも関係は出ませんでした。過去には、深い睡眠と眠れた感がつながるという研究もあり、著者は、高齢の人では深い睡眠と眠れた感の結びつきが若い人より弱いのかもしれない、と述べています。

睡眠段階については、女性でだけ、ごく浅い眠り(N1)が多いほど評価が低く、少し深い眠り(N2)が多いほど評価が高い、という弱い傾向が見られた程度でした。

4. 女性のほうが、前の晩の眠りを高く評価していた

女性は男性より、前の晩の眠りを「深い」(平均3.5対3.1)、「休まった」(3.7対3.2)と高く評価していました。一方で、この1か月の睡眠の質の質問票(PSQI)では、女性のほうが悪い点数でした。

ただし著者は、男女のデータが別々の研究から、別の時期・別の地域で集められていることを挙げ、この男女差の一部または全部がその違いによるものかもしれないと注意しています。

この研究の限界

著者自身が、次の点を挙げています。

  • 高齢の人だけ:平均80歳を超える人たちのデータで、若い世代に当てはまるかは分からない。
  • 質問は2つだけ:「深さ」と「休まった感じ」の2つの聞き方での結果。「睡眠の質はどうでしたか」と直接聞くなど、別の聞き方なら違う結果になった可能性もある(ただし著者は、どの聞き方でも睡眠効率が中心になるだろうと見ている)。
  • 測っていない項目がある:寝つくまでの時間(データの信頼性の問題で分析から外した)、脚の動き、脳波の細かい周波数の分析などは含まれていない。
  • 一晩だけ:検査は一晩。自宅とはいえ、検査の機器を着けて眠った夜です。
  • 地域による差の理由が分からない:検査を受けた地域が重要な項目になったが、その理由は特定できなかった。

また著者は、「よく眠れた」と感じることと、睡眠が体や脳の回復という役割を十分に果たしたかどうかは 別のこと だとも述べています。今回の結果からは、睡眠の生物学的な回復と、本人が感じる「眠れた感」が、必ずしも一致しない可能性があります。眠れた感に影響しうるものとして、著者は「その晩への期待」「目覚める直前の睡眠段階」「寝起きのぼんやり(睡眠慣性)」などを、これから調べるべき候補に挙げています。

日常で取り入れるなら

この研究から言えるのは、次のようなことです。

  • アプリの「深い睡眠」の数字に一喜一憂しすぎない:病院の検査でさえ、深い睡眠の量は翌朝の眠れた感をほとんど予測しませんでした。家庭用のトラッカーは、睡眠段階の判定がさらに大まかです。
  • 見るなら「途切れずに眠れていたか」:この研究で最も効いていたのは、布団の中で眠っていた時間の割合(睡眠効率)や、夜中の目覚めの少なさでした。トラッカーに睡眠効率や中途覚醒の記録があれば、深い睡眠の時間より先にそちらを見てみるのも一つの方法です。
  • 数値と感覚がずれても、おかしくない:数値が良いのにすっきりしない、数値が悪いのに元気、ということは、この研究の結果からすれば珍しいことではありません。

PR数値と感覚のずれを自分で確かめたいときは、朝の「よく眠れた感」を、トラッカーの数値と並べて書き留めておくと見比べやすくなります。睡眠日誌のノート ›Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。

自分の記録を長く取り続けた例としては、472日分の眠りを記録した研究を紹介したコラムもあわせてどうぞ。また、音で深い睡眠を増やそうとする研究については、規則的な音と深い眠りの研究で紹介しています。今回の研究を踏まえると、「深い睡眠が増えた」ことと「よく眠れたと感じる」ことは、分けて考える必要がありそうです。

眠りの和声は、寝る前に流す音をブラウザの中で合成するウェブサービスです。今夜の音を決めたら、明日の朝は数値より先に「よく眠れた感」を、自分の言葉で振り返ってみてください。

この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。眠れない状態や、昼間の強い眠気が続くときは、医師にご相談ください。

この研究の著者・研究室・企業

参考文献

  1. Kaplan KA, Hirshman J, Hernandez B, Stefanick ML, Hoffman AR, Redline S, Ancoli-Israel S, Stone K, Friedman L, Zeitzer JM; Osteoporotic Fractures in Men (MrOS) and Study of Osteoporotic Fractures (SOF) Research Groups. When a gold standard isn't so golden: Lack of prediction of subjective sleep quality from sleep polysomnography. Biological Psychology 123:37–46 (2017). 著者原稿は PubMed Central(PMC5292065) で無料で読めます。
朝の光が差し込むベッドの上に、開いたノートと眼鏡、花飾りの付いたペン、湯気の立つ丸いティーカップが置かれている
イメージ写真(StockSnap/Carli Jeen)

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