472日、自分の眠りを記録し続けたら ― 睡眠の質と一緒に動いていた16のこと
「夜遅くに食べた日は、なんだか眠りが浅い気がする」「コーヒーを飲む時間で、寝つきが変わる気がする」。こうした「気がする」を、自分のデータで確かめてみたくなったことはありませんか。
今回は、1人の研究者が 472日分の自分の眠り を記録し、生活のさまざまな記録と照らし合わせて「何が眠りの質と一緒に動いていたのか」を調べた研究を紹介します。
この研究について
- 論文:Quantified Sleep: Machine learning techniques for observational n-of-1 studies(数値で見る眠り:1人を観察する研究のための機械学習の手法)
- 著者:Gianluca Truda(アムステルダム自由大学)
- 公開:2021年5月、arXiv(論文の公開サイト)
- 段階:arXiv で公開された53ページの論文です。arXiv のページには、学術誌に掲載されたという記載はありません。
調べられているのは著者自身です。このように、1人の人を対象にする研究を「n-of-1(エヌ・オブ・ワン)」と呼びます。自分の体や生活を記録して数値で振り返る「クオンティファイド・セルフ(数値化された自分)」と呼ばれる取り組みの一つです。
何を記録したのか
眠りの質は、指輪型の睡眠トラッカー Oura リング(第2世代)で毎晩測りました。リングが出す「睡眠スコア」(0〜100点)は、次の要素を重みづけして合計したものです。
| 要素 | 重み |
|---|---|
| 睡眠時間 | 35% |
| レム睡眠の時間 | 10% |
| 深い睡眠の時間 | 10% |
| 睡眠効率(横になっていた時間のうち、眠っていた割合) | 10% |
| 寝つくまでの時間 | 10% |
| 理想の睡眠時間帯とのずれ | 10% |
| 夜中に目が覚めた | 5% |
| 夜中に起き上がった | 5% |
| 寝返りなど体の動き | 5% |
PR研究で使われたのは第2世代ですが、現行の Oura リングは Amazon で見られます。Oura Ring 5(オーラリング 第5世代)›指輪なので、購入前にサイズの確認が必要です。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。
このスコアと照らし合わせるために、著者は次のような記録をアプリや表計算ソフトで集めました。
- 飲みもの:カフェインとお酒を、飲み始めて5分以内にアプリで記録
- 食事:1日の中で食べていた時間帯(いつ食べ始め、いつ食べ終えたか)
- 体:腕時計型の端末で、ほぼ1分ごとの心拍数。スマートフォンで歩数や運動
- 習慣:瞑想・ギターの練習・読書などを、毎晩寝る前に「した/しなかった」で記録
- 気分:その日の気分とエネルギーを、1日に何度か記録
- 環境:スマートフォンで、いた場所・天気・気圧・通話の記録
- そのほか:パソコンを何に使っていたか(仕事・娯楽など)、メラトニンや CBD オイルを摂った量と時刻
日付の区切りは、夜中の0時ではなく 朝5時 にしています。夜中の1時に飲んだお酒を、日付が変わる前の「その日」の出来事として数え、そのあとの眠りと正しく結びつけるためです。こうして、300を超える項目を1日1行にまとめました。
記録した472日(2019年10月中旬〜2021年1月中旬)のうち、およそ65%は新型コロナウイルスによる外出制限の期間でした。
どうやって調べたのか
ここが、この論文のいちばん大きな部分です。1人の記録には、次のような難しさがあります。
- 日数のわりに、項目が多すぎる:472日に対して300を超える項目があるため、ただ当てはめると偶然の関係まで拾ってしまう。
- 記録の抜けが多い:途中から使い始めたアプリや、つけ忘れた日がある。
- 今日の眠りは、今日のことだけで決まらない:前の日や先週の出来事も影響しうる。
著者は、抜けた値を周りのデータから推定して埋める方法を何種類も比べました。また、各日に「1日前〜7日前の記録」も並べて持たせる工夫をしています(著者は「マルコフ展開」と呼んでいます)。そのうえで、いくつもの予測の仕組みを試し、その晩の睡眠スコアを最もよく当てられた組み合わせを選びました。最後に、その仕組みが「どの項目を重く見て予測していたか」を3つの方法で調べ、共通して重要だった項目を絞り込んでいます。
分かったこと
1. 一つの項目だけでは、眠りの質はほとんど説明できなかった
同じ日の記録で比べると、睡眠以外の項目と睡眠スコアとの相関(一緒に動く度合い。−1〜+1)は、どれも −0.3〜+0.3 の範囲にとどまりました。「これさえ気をつければよく眠れる」というような、目立って強い項目は見つかっていません。前日の記録まで広げると、前日の夜の心拍数(−0.46)や、前日に日が暮れてから食べていた時間(−0.44)のように、もう少しはっきり一緒に動く項目も出てきます。
また、よく眠れた夜の翌晩は、やや質が下がる という揺り戻しも見られました(前の晩との相関は約 −0.2)。前の晩の睡眠時間が長いと、その晩のスコアが低めになる傾向もありました。
2. 300を超える項目から、16の項目に絞り込めた
最終的な予測の仕組みは、睡眠スコアの動きのおよそ半分(決定係数 0.546)を説明できました。とくに、ひどく眠れなかった夜は、実際より良い点数に予測されがちでした。
そのうえで、予測に効いていた項目として16個が残りました。主なものを、睡眠スコアとの関係の向きとあわせて紹介します。
| 項目 | 関係の向き |
|---|---|
| 前日の夜の心拍数(中央値) | 高いほど、スコアが低い |
| 前日の夜の心拍数のばらつき | 大きいほど、スコアが低い |
| 前日、日が暮れてから食べていた時間 | 長いほど、スコアが低い |
| 前日に食べなかった時間(断食の時間) | 長いほど、スコアが高い |
| その日、最初にカフェインを摂った時刻 | 遅いほど、スコアが高い |
| 長距離の移動中かどうか | 移動中は、スコアが低い |
| 前日の睡眠時間 | 長いほど、スコアが低い |
| メラトニンの量 | 多いほど、スコアが低い |
| 2日前の夕方5時の活動量 | 多いほど、スコアが高い |
| 3日前の気圧 | 高いほど、スコアが高い |
| 4日前に本を読んだか | 読んだ日ほど、スコアが低い |
残りは、7日前にじっとしていた時間、7日前に特定の場所にいた時間、その日に訪れた場所の数、メラトニンを飲んだ時刻、3日前に CBD オイルを摂った時刻です。
16個のうち11個は「1日前」や「7日前」など、過去の日の記録 でした。著者は、前日と、1週間前の同じ曜日の記録がとくに効いていたことから、眠りには数日〜1週間の積み重ねが関わっていると考えています。
カフェインについては、1日の中で飲む時刻がばらついている日ほど、スコアが大きく下がる日がありました。長距離の移動については、眠れなかった夜がすべて移動のせいではないものの、移動した日はスコアを下げていた、と著者は読んでいます。
PR表にある「3日前の気圧」のように、天気と自分の眠りを見比べてみたいときは、気圧の変化をグラフで表示できる気圧計が手がかりになります。タニタ 気圧計 TT-594 ›Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。
3. 予想どおりの項目と、予想と逆の項目があった
移動・食事の時間帯・前の晩の眠り・メラトニンは、もともと眠りに関わるとされている項目です。一方で、メラトニンは多いほどスコアが低い という、これまでの研究とは逆の向きになりました。著者は、研究の組み立て方によるものかもしれないし、自分の眠りの個性かもしれない、と述べています。
「4日前に本を読んだか」「3日前の気圧」のように、直感では結びつかない項目も残りました。著者は、これらの項目そのものが眠りに効いているのではなく、一緒に動く別の項目のまとまりを代表して選ばれた 可能性を挙げています。たとえば読書は、パソコンの使い方・いた場所・お酒・午後の活動量などと一緒に動いていました。
この研究の限界
著者自身が、次の点を挙げています。
- 1人のデータ:結果のほとんどは、ほかの人には当てはまらない可能性が高い。著者自身の「これから」にも当てはまらないかもしれない(とくにメラトニンの結果)。
- 原因かどうかは分からない:記録を観察しただけで、何かを変えて比べたわけではない。見つかった16個は、次に「1つずつ変えて確かめる実験」をするための候補という位置づけ。
- 測り方の誤差:Oura リングは、病院で使う睡眠検査(ポリソムノグラフィー)ほど正確ではない。睡眠の段階の判定は、検査とかなり食い違うという報告もある。
- 記録する人と記録される人が同じ:睡眠を記録すること自体が不安を生んで眠りに影響したり、記録をつける行為が思い込みの効果を生んだりしうる。
- 特別な時期:期間の多くが外出制限中で、生活が単調だった。その間ほとんど変わらなかった項目は、本当は大事でも見つけにくい。
読む側としては、表の「向き」は、この1人の472日の中で一緒に動いていたという意味に過ぎない点に注意が必要です。たとえば「朝のコーヒーを遅らせればよく眠れる」とまでは言えません。
日常で取り入れるなら
この研究がいちばん伝えているのは、16個の項目そのものより、自分の眠りに何が効くかは、自分の記録で確かめるしかない ということかもしれません。著者も、まず広く記録して候補を絞り、次に1つずつ変えて確かめる、という順番をすすめています。
試してみるなら、次のような手順がよさそうです。
- 気になることを1つか2つに絞って、毎日記録する(例:夕食を食べ終えた時刻、最後にカフェインを摂った時刻)。
- 朝起きたときに、眠れた感じを5段階などで一緒に記録する。
- 2〜3週間たったら、気になったことを1つだけ変えてみて、記録を見比べる。
寝る前の音も、記録してみる価値のある項目の一つです。眠りの和声は前回の音の設定を覚えているので、「今週はこの組み合わせ」と決めて続け、翌朝の感じをメモしてみるのもよいかもしれません。
この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。メラトニンなどのサプリメントを使うときや、眠れない状態が続くときは、医師や薬剤師にご相談ください。
この研究の著者・研究室・企業
- 著者Gianluca Truda さんのサイト(この研究の紹介も載っています)
参考文献
- Gianluca Truda. Quantified Sleep: Machine learning techniques for observational n-of-1 studies. arXiv:2105.06811 (2021).