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バイノーラルビートで脳波はそろうのか ― 14の研究をまとめた系統的レビューを読む

ヘッドホンをつけてベッドで目を閉じ、穏やかに休む人の水彩風イラスト。左右から音符の流れが頭のまわりに集まり、窓には三日月。上部に記事の題名「バイノーラルビートで脳波はそろうのか ― 14の研究をまとめた系統的レビューを読む」
イメージイラスト(AI生成)

「θ(シータ)波の音」「α(アルファ)波を引き出す音」。睡眠や集中のための音源を探していると、こうした言葉と一緒にバイノーラルビートという名前をよく見かけます。眠りの和声にも「バイノーラル」という設定があります。

バイノーラルビートを聞くと、脳波がそのリズムにそろう。この考えは、研究でどこまで確かめられているのでしょうか。今回は、この問いに答えようとした研究をまとめて評価した論文(系統的レビュー)を読みます。あわせて、眠りの和声のバイノーラル設定が何をしているのかも説明します。

この論文について

  • 論文:Binaural beats to entrain the brain? A systematic review of the effects of binaural beat stimulation on brain oscillatory activity, and the implications for psychological research and intervention
  • 著者:Ruth Maria Ingendoh、Ella S. Posny、Angela Heine
  • 所属(論文の記載):デュースブルク=エッセン大学 心理学部(ドイツ)
  • 掲載:PLOS ONE 18巻5号 e0286023(2023年5月)。査読を経て掲載された論文で、誰でも全文を読めます。著者は、利益相反は無いと申告しています。
  • 種類:系統的レビュー。決めた手順で論文を集め、条件に合うものを選んで、まとめて評価する研究です。新しく実験をしたものではありません。

バイノーラルビートとは

左右の耳に、少しだけ高さの違う音を別々に届けます。すると、2つの音の差の速さで揺れる「3つ目の音」が、頭の中で聞こえます。論文の例では、右耳に 400Hz、左耳に 420Hz の音を流すと、20Hz のバイノーラルビートが生じます。

ポイントは、この揺れが空気の中で音どうしが重なって生まれるものではないことです。左右の耳からの信号を脳が合わせたときに生まれる知覚で、論文は、両耳の信号が最初に出会う脳幹の部位(上オリーブ複合体)が主に関わっているとしています。研究では、左右の音が混ざらないようヘッドホンで流すのが普通です。

聞こえ方には、次のような条件があると紹介されています。

  • 元になる2つの音(搬送音)は、1000Hz 以下でないと生じない
  • 2つの音の差はおよそ30Hzまで。それより離れると、2つの別々の音として聞こえる
  • 搬送音が 400Hz 前後のときに聞こえやすいとする研究がある
  • 差が20Hzまでは音量が揺れるように、3Hzより小さいと頭の中を左右に回るように聞こえる(どれも目安で、人によって違う)

なお、1つの耳に2つの音を一緒に流すと、こちらは本当に音が重なって揺れます。これはモノーラルビートと呼ばれ、バイノーラルビートとは別のものとして扱われています。

「脳波がそろう」という考え

バイノーラルビートの差(1〜30Hz)は、脳波の主な周波数の帯と重なります。そこで、「外から一定の速さの刺激を与えると、脳波がその速さで揺れるようになる」という考え(脳波の同調の仮説)をもとに、θ帯やα帯のビートで気分・集中・痛み・リラックスなどが変わるかが研究されてきました。

ただし著者は、こうした応用の研究の多くが、脳波が本当にそろったかを測らず、前提として扱っていると指摘しています。前提そのものが確かでなければ、その上に立つ結果も揺らぎます。そこで、「バイノーラルビートで脳波がそろうのか」だけに絞って、これまでの研究を集めたのがこのレビューです。

どうやって調べたのか

  • 3つの論文データベース(PubMed・Web of Science・Scopus)を2021年6月に検索し、2022年4月と2023年4月にも同じ条件で検索し直しました。
  • 選んだのは、次の条件をすべて満たす研究です。
    • 参加者は、神経の病気が無く、耳の聞こえに問題の無い成人
    • 脳波の周波数の帯に当たるビートを、純音(またはノイズに埋め込んだ純音)で流している
    • 脳波がそろわないと考えられる比較の条件(無音など)がある
    • 参加者は聞くだけで、ほかの課題をしていない(音の無い映画を見ながら、は可)
    • 脳波を測り、そろったかどうかを確かめている
  • 最初の検索で185件、検索し直しで59件が見つかり、条件に合う17件を選びました。もう1人の研究者が別に同じ手順で選び、食い違いは話し合って決めています。
  • さらに、脳波の測り方や分析の書き方が不十分な3件を除き、最終的に14件を評価しました。

集まった14の研究

  • 発表は2007〜2023年。ヨーロッパ・アジア・南北アメリカの研究チームによるものです。
  • 参加者は4人(予備的な研究)〜47人。平均年齢は20代で、ほとんどが35歳くらいまでの若い成人でした(年齢の高い人を調べたのは1件だけ)。
  • ビートの速さは、θ帯が10件で最も多く、δ帯は3件でした。
  • 流し方は、1〜30分続けて流すものが13件。4件は、ビートをピンクノイズに埋め込んでいました。
  • 搬送音は100〜900Hz。聞こえやすいとされる400Hzを使ったのは4件だけでした。

分かったこと

14件の結果は、はっきり分かれました。

結果件数
脳波がそろうという考えに合う結果5件
合わない結果(そろわなかった)8件
どちらとも言えない結果1件

「どちらとも言えない」1件は、θ帯の脳波の割合(相対的な強さ)は増えたものの、強さそのもの(絶対的な強さ)は変わらなかった研究です。論文の本文には「合う結果6件、少なくとも一部が合わない結果9件」という書き方もありますが、これはこの1件を両方に数えたものです。

ほかに、次の点が挙げられています。

  • 合う結果が出たのは、θ帯・α帯・γ帯のビートでした。必要だった時間は、θ帯で6〜10分、α帯で5分、γ帯で15分です。
  • β帯のビートを流した研究では、どれも脳波がそろう結果は出ませんでした。
  • ビートをピンクノイズに埋め込んだ4件は、どれも脳波がそろう結果を示しませんでした。
  • 研究ごとに、ビートの流し方、比較の条件、脳波の測り方や分析の方法がばらばらでした。そのため、結果を数値でまとめて比べること(メタ分析)はできませんでした。

著者の結論は、今の研究からは「バイノーラルビートで脳波がそろう」とも「そろわない」とも言えない、というものです。合わない結果の方が多いことは、この考えに深刻な疑問を投げかけるとしつつ、同じデータを新しい分析方法で調べ直すと、そろう方向の結果が出た例もあると紹介しています。そのうえで、脳波がそろったことを前提に心理や体への効果を報告している研究は、慎重に受け止めるべきだとしています。

この研究の限界

著者自身が、次の点を挙げています。

  • 論文として発表された研究だけを対象にしています。発表されていない研究や学会発表などは含みません。
  • 各研究からデータを抜き出す作業は、著者の1人だけで行いました。
  • 研究どうしのやり方が違いすぎて、数値での分析ができず、効果の大きさは分かりません。
  • レビューの計画を、事前に登録していません。

読む側として、ほかにも次の点に注意が必要です。

  • このレビューが調べたのは「脳波がそろうか」で、眠りやリラックスへの効果ではありません。 「効果が無い」と示したわけでも、「効果がある」と示したわけでもありません。
  • 参加者は若い成人が中心で、年齢の高い人に同じことが言えるかは分かりません。
  • 眠りについては、このサイトで紹介した5種類の音を聞き比べた研究でも、バイノーラルビートがほかの音より特に眠りに入りやすかったという結果は出ていません。

眠りの和声の「バイノーラル」は何をしているか

眠りの和声のバイノーラル設定は、この記事で説明したとおりの仕組みで音を作っています。

  • 左耳には、基準ピッチ(A4)の設定によって異なりますが、既定の 432Hz の場合は D3(約144Hz。440Hz の場合は約147Hz)、右耳にはそれより 1Hz・2.5Hz・5Hz のどれか高い音を、なめらかな正弦波で流します。既定は 2.5Hz です。
  • 搬送音の約144〜147Hzは、レビューに集まった研究で使われた範囲(100〜900Hz)には入りますが、聞こえやすいとされる400Hz前後よりは低めの音です。
  • 設定の「δ 1 Hz」「θ 5 Hz」という表示は、うなりの速さが脳波のどの帯に当たるかを示す目安です。脳波がその速さにそろうことを約束するものではありません。

「脳波を変える音」として期待しすぎず、和音や環境音と同じように、聞いていて落ち着くかどうかで選ぶのがよさそうです。

少し試してみて、うなりを心地よく感じるのならオンに、気になる場合はオフのままで。

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この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。眠れない状態が続く場合は、医療機関にご相談ください。

この研究の著者・研究室・企業

参考文献

  1. Ruth Maria Ingendoh, Ella S. Posny, Angela Heine. Binaural beats to entrain the brain? A systematic review of the effects of binaural beat stimulation on brain oscillatory activity, and the implications for psychological research and intervention. PLOS ONE 18(5): e0286023 (2023).
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イメージ写真(Burst/Shopify Partners)

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