マットレスは硬め?柔らかめ? ― 3種類の硬さで昼寝の眠りを測った研究を読む
マットレスを選ぶとき、「腰のためには硬めがいい」「柔らかい方が体を包んでくれて眠れる」と、正反対の話を耳にします。お店で数分寝転がってみても、ひと晩そこで眠ったらどうなるのかは、なかなか分かりません。
マットレスの研究の多くは、体圧の分かれ方や背骨の形、腰の痛みといった「体への当たり方」を調べてきました。眠りそのものを脳波で測って比べた研究は、意外と少ないのです。今回は、硬さだけが違う3種類のマットレスで、同じ人の眠りを脳波などで測って比べた研究を読みます。
この論文について
- 論文:The Effect of Mattress Firmness on Sleep Architecture and PSG Characteristics(マットレスの硬さが睡眠の構造と睡眠ポリグラフの特徴に与える影響)
- 著者:Xiaohong Hu、Yuhong Gao、Yixuan Song、Xiaoqin Yang、Keyang Liu、Bin Luo、Yan Sun、Li Li
- 所属(論文の記載):北京林業大学 材料科学技術学院、北京大学 中国薬物依存研究所 ほか(中国)
- 掲載:Nature and Science of Sleep 17巻(2025年5月)。査読を経て掲載された論文で、誰でも全文を読めます。
- 資金と利益相反:中国の国の研究プロジェクト(STI2030)の支援を受けています。著者は、利益相反は無いと申告しています。マットレスは地元の発泡材の工場で作られた、市販品ではない試験用のものです。
どうやって調べたのか
参加者
北京林業大学で集めた、18〜25歳の健康な右利きの成人です。体格指数(BMI)が標準(18.5〜24.9)の人に限り、腰や背骨の病気、不眠、睡眠時無呼吸のある人、不安の質問票や睡眠の質の質問票(PSQI)で点数が高い人は除いています。
はじめに15人を集め、慣らしの昼寝で眠れなかった2人と、柔らかいマットレスでは眠れなかった1人が外れて、分析したのは12人(男女6人ずつ、平均23.3歳、BMI の平均 20.5)です。
マットレス
厚さ10cm のウレタンフォームのマットレスを3枚用意しました。素材も厚さも下の構造も同じで、違うのは硬さだけです。硬さはゴムの硬さを測る計器(ショア A 硬度計)で測り、柔らかい方から 32.6・64.6・83.8 という値でした。
| マットレス | ショア A 硬度 |
|---|---|
| 柔らかい | 32.6 |
| 中くらい | 64.6 |
| 硬い | 83.8 |
この数値は、お店のマットレスに書かれている「ふつう」「かため」といった表示や、ニュートン(N)で示される硬さとは、測り方が違います。そのまま市販品に当てはめることはできません。
測り方
本番の前に、まず実験室で1回、慣れるための昼寝をしました。本番では3種類のマットレスで1回ずつ、90分の昼寝(12時30分に消灯、14時に点灯)をしています。どのマットレスから試すかは人ごとに順番を入れ替え、1回ごとに5日以上空けました。前の3日間は毎晩7時間以上眠ることを求め、前日からお酒・カフェイン・薬を控えてもらっています。
部屋は暗くして、室温は 21℃前後、湿度は 45%前後に保ちました。
眠りは睡眠ポリグラフ(脳波・眼の動き・筋電・心電図・呼吸などを一度に記録する検査)で測りました。眠りの段階の判定は、研究の目的を知らされていない専門の技師が行っています。起きたあとには、眠気の質問票、寝心地の悪さの評価(0〜10)、画面に合図が出たらすぐにボタンを押す反応の速さのテストもしました。
分かったこと
以下の数値は、12人の平均です。
1. 柔らかいマットレスでは、寝つくまでが長かった
消灯から眠り始める(浅い眠りの段階 N1 に入る)までの時間は、次のとおりでした。
| 柔らかい | 中くらい | 硬い | |
|---|---|---|---|
| 寝つくまでの時間 | 12.42分 | 7.71分 | 11.50分 |
柔らかいマットレスと中くらいのマットレスの間の差は、統計的に意味のある差でした。硬いマットレスとの差は、意味のある差とは言えませんでした。
2. 柔らかいマットレスでは、眠りの段階がよく切り替わった
眠っている間、眠りは浅い段階・深い段階・レム睡眠・目覚めの間を行き来します。90分の間にこの段階が切り替わった回数は、柔らかい 29.17回、中くらい 23.33回、硬い 21.75回でした。
論文の表と要旨では、柔らかいマットレスと硬いマットレスの間に統計的に意味のある差があったとされています。ただし、結果の本文では「柔らかいマットレスは中くらいのマットレスより多かった」と書かれていて、どの組み合わせの差なのか、論文の中で書き方が食い違っています。ここでは表と要旨に合わせています。
著者らは、柔らかいマットレスでは腰などが沈んで背骨を支えきれず、それが寝つきの遅さや眠りの落ち着かなさにつながった可能性を挙げています。ただ、この研究で背骨の形や体圧を測ったわけではありません。
3. 眠りの長さや深い眠りは、はっきりした差が出なかった
| 柔らかい | 中くらい | 硬い | |
|---|---|---|---|
| 眠っていた時間 | 68.83分 | 75.92分 | 69.54分 |
| 睡眠効率(床にいた時間のうち眠っていた割合) | 76.48% | 83.57% | 77.27% |
| 深い眠り(N3) | 13.71分 | 17.42分 | 14.25分 |
どれも中くらいのマットレスが少しよい数字ですが、統計的に意味のある差ではありませんでした。数字の大小だけを見て「中くらいなら深く眠れる」とは言えません。
4. 中くらいのマットレスで「睡眠紡錘波」が大きかった
脳波を細かく調べると、浅い眠り(N2)のときに出る睡眠紡錘波という短い波の大きさ(最大の振幅と、振幅を積み上げた量)が、中くらいのマットレスで柔らかい・硬いの両方より大きくなっていました。睡眠紡錘波は、記憶の整理や眠りの安定に関わるとされる波です。
一方で、深い眠りの目安になる遅い波(徐波)の数や大きさ、眠り始めから20分間の深まり方には、差がありませんでした。
5. 硬いマットレスは、人によって結果が分かれた
硬いマットレスでは、睡眠効率がよい人と悪い人に分かれ、眠っていた時間や寝つくまでの時間も、人によるばらつきが3種類の中でいちばん大きくなりました。反対に、中くらいのマットレスはばらつきがいちばん小さく、多くの人がそれなりによく眠れていました。
著者らはこれを、「硬いマットレスは合う人には合うが、誰にでも合うわけではない」と読んでいます。過去の研究では、体重が重い人や腰回りが大きい人ほど硬めのマットレスで背骨がまっすぐ保たれやすいことが知られていて、体格の違いが理由の一つかもしれない、としています。
6. 起きたあとの眠気や反応の速さ、寝心地には差がなかった
起きたあとの眠気、反応の速さのテストの結果には、マットレスによる差はありませんでした。寝心地の悪さの評価(0〜10、数字が大きいほど悪い)は、柔らかい 2.33、中くらい 1.75、硬い 3.33 で、硬いマットレスがいちばん悪く評価されましたが、これも統計的に意味のある差ではありませんでした。
この研究の限界
著者ら自身が、次の点を限界として挙げています。
- 若い人で、標準体型の人だけ:18〜25歳、BMI が標準の人に限っています。年齢を重ねた人や、体格が違う人では、合う硬さが変わる可能性があります。
- 夜の睡眠ではなく、90分の昼寝:昼寝は夜の眠りと段階の並び方が違い、ひと晩眠ったときに同じ結果になるかは分かりません。
- 昼の決まった時刻だけ:12時30分からの昼寝だけで調べているので、体内時計の影響を受けている可能性があります。
これに加えて、読む側として次の点にも気をつけたいところです。
- 人数が12人と少ない:たくさんの項目を比べた中で、統計的に意味のある差が出たのは寝つくまでの時間、段階の切り替わり、睡眠紡錘波の大きさなど一部です。
- 1種類につき1回ずつ:ふだんと違う寝床で、1回の昼寝で比べています。何日か使って体が慣れたあとの結果ではありません。
- 柔らかいマットレスで眠れなかった1人が外れている:柔らかさが合わない人を分析から外しているので、柔らかいマットレスの不利は、実際にはもう少し大きいのかもしれません。
- 「中くらい」はこの実験の3枚の中での中くらい:市販品のどの硬さに当たるかは、この論文からは分かりません。
日常で取り入れるなら
この研究から言えるのは、「中くらいの硬さがいちばん」と決めつけることではありません。12人の昼寝の結果からうかがえるのは、次のようなことです。
- 柔らかすぎるマットレスは、寝つきや眠りの落ち着きの面で不利になりうる
- 硬めのマットレスは、合う人と合わない人がはっきり分かれる
- 中くらいの硬さは、多くの人にとって外れにくい
マットレスを選ぶときは、売り場で数分寝転がるだけでなく、仰向けと横向きの両方を試し、腰が沈みすぎていないか、肩や腰に当たる感じが無いかを確かめてみてください。お試し期間のある商品なら、何晩か使ってから決めるのも一つの方法です。いま使っているマットレスが柔らかすぎると感じるなら、上に硬めのマットレストッパーを重ねるという手もあります。
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この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。腰や首の痛みがある場合や、眠れない状態が続く場合は、医療機関にご相談ください。
この研究の著者・研究室・企業
- 研究者罗斌(Bin Luo)副教授(北京林業大学 材料科学技術学院。責任著者)
- 研究者孙艳(Yan Sun)副研究員(北京大学 中国薬物依存性研究所。責任著者)
参考文献
- Xiaohong Hu, Yuhong Gao, Yixuan Song, Xiaoqin Yang, Keyang Liu, Bin Luo, Yan Sun, Li Li. The Effect of Mattress Firmness on Sleep Architecture and PSG Characteristics. Nature and Science of Sleep 17 (2025). doi:10.2147/NSS.S503222