fortuna眠りの和声

嫌な予感がした朝は、本当に頭が働かない!? ― 240人が2週間スマートフォンで記録した論文「ベッドの悪い側から起きる」を読む

淡い水彩のイラスト。朝の寝室で、パジャマ姿の人がベッドの上で額に手を当て、不安そうな顔をしている。頭の上の吹き出しには、カレンダー・時計・書類・コーヒーカップ・もつれた線・「日中のストレス」のメモが浮かぶ。まわりには雲と月と星。左上に記事の題名「嫌な予感がした朝は、本当に頭が働かない!? ― 240人が2週間スマートフォンで記録した論文「ベッドの悪い側から起きる」を読む」
イメージイラスト(AI生成)

昨日の朝の記事では、起きる前から部屋を少しずつ明るくする光で、眠りの感じ方がどう変わるかを読みました。その研究では、最後まで続けた人の35%が「気分がよくなった」「少しよくなった」と答えていました。

では、そもそも寝起きの気分は、その日一日に響くものなのでしょうか。英語には「ベッドの悪い側から起きる(wake up on the wrong side of the bed)」という言い回しがあり、朝から機嫌が悪く、一日うまくいかない様子を表します。

今朝は、起きたときに「今日はストレスの多い一日になりそう」と感じた日ほど、その日の頭の働き(作業記憶)が落ちていたのかを、240人が2週間スマートフォンで記録して調べた研究を読みます。

この論文は、ライフハッカー・ジャパン「くよくよ悩むのは夜まで。朝目覚めたときの気分で脳の働きが変わってしまうから」(2019年8月31日)でも紹介されています。

この論文について

  • 題名: Waking Up on the Wrong Side of the Bed: The Effects of Stress Anticipation on Working Memory in Daily Life(ベッドの悪い側から起きる ― ストレスの予期が日常の作業記憶に与える影響)
  • 著者: Jinshil Hyun、Martin J. Sliwinski、Joshua M. Smyth(米国・ペンシルベニア州立大学 人間発達・家族学科、健康な老い研究センター、生物行動健康学科・医学科)
  • 掲載: The Journals of Gerontology: Series B, Psychological Sciences and Social Sciences 74(1): 38–46(2019年1月。オンラインでは2018年5月15日)。査読を経て掲載された論文で、特集「ストレスを予期する」の1本です。
  • 資金と利害: 米国国立衛生研究所(NIH)・国立老化研究所(NIA)・国立先進トランスレーショナル科学センター(NCATS)の研究費と、レナード・アンド・シルビア・マルクス財団、ザップ財団の支援を受けています。利益相反は「報告なし」とされています。

どうやって調べたのか

参加者

ニューヨーク市ブロンクスのある郵便番号の地域に住む人を、有権者名簿から確率的に選んで手紙を送り、電話で条件を確かめて参加してもらいました。参加したのは25〜65歳(平均47.0歳)の240人で、男性34%・女性66%です。人種や経済的な状況がさまざまな人たちで、63%が非ヒスパニック系の黒人でした。

※女性がやや多い(地域の人口では58%)ほかは、その地域の住民をよく代表している、と論文は書いています。

1日7回、スマートフォンで答える

参加者は研究室で研究用のスマートフォンの使い方を教わり、2日間の練習期間のあと、14日間、次の記録を続けました。

いつ何を答えるか
起きてすぐ昨夜の眠りと、「全体として、今日はどれくらいストレスの多い日になると思いますか?」
日中に5回(不規則な時刻に通知)「前回の記録のあと、何かストレスになることがありましたか?」(ささいなことでもよい)と、そのすぐ後に短い記憶の課題
寝る前「全体として、明日はどれくらいストレスの多い日になると思いますか?」

「今日(明日)はどれくらいストレスが多そうか」は、「まったくストレスがない」から「とてもストレスが多い」までのスライダーで答え、0〜100点で記録しました(分析では0〜10点に直しています)。日中の通知の間隔は、平均で約2.5時間でした。

記録にかかった時間は、朝が平均1分33秒、日中が2分58秒、寝る前が3分11秒。答えた割合は、朝が90.7%、日中が81.4%、寝る前が81.1%と高く、全部やり終えた人は最大160ドルを受け取れました。

記憶の課題

日中の課題は、5×5のマス目に出る3つの赤い点の位置を覚えるものです。3秒で点とマス目が消え、8秒間の別の画面をはさんでから、空のマス目に点のあった場所を入力します。これを1回に2度行います。

成績は、正しい位置からどれだけずれたか(距離)で数え、数字が大きいほど成績が悪いことになります。作業記憶(短い間、情報を頭に置いておいて使う働き)を測る方法として、著者らが以前の研究で確かめたものです。

比べ方

ここが大事なところです。この研究は、人と人を比べたのではなく、同じ人の中で、「いつもより『今日はストレスが多そう』と感じた朝」と「そうでない朝」で、その日の課題の成績が違うかを調べています。

年齢・性別・学歴と、日がたつにつれて課題に慣れていく分も、計算に入れています。

結果

起きたときの予想が高い日ほど、その日の成績が悪かった

起きたときに「今日はストレスが多そう」と感じた日ほど、その日一日の記憶の課題の成績が悪くなっていました(予想が10点満点で1点高いごとに、ずれが0.012大きい。p = 0.027)。

※記録がそろった2,915日分のデータです。0〜10点に直した朝の予想の平均は3.22点、課題のずれの平均は1.82でした。

前の晩の予想は、関係がなかった

一方、寝る前に「明日はストレスが多そう」と答えたことは、次の日の成績と関係していませんでした。朝と前の晩の予想を一緒に計算に入れると、朝の予想だけが関係を保ちました(1点あたり0.017。p = 0.006)。

同じ人の中で見ると、前の晩の予想と翌朝の予想の結びつきは、それほど強くありませんでした(相関 0.36)。夜に思ったことと、朝起きて思うことは、同じではないようです。

実際のストレスを差し引いても残った

「朝そう感じた日は、本当にストレスの多い日だったから成績が悪かっただけでは?」という見方もできます。そこで、その日に実際に報告されたストレスの数を計算に入れても、朝の予想と成績の関係は残りました(1点あたり0.017。p = 0.0096)。

その日のストレスの数そのものは、成績とはっきりした関係がありませんでした(p = 0.24)。課題の直前にストレスがあったかどうかを入れても、結果は変わりませんでした。

年齢による違いはなかった

著者らは、年齢が上の人ほど朝の予想の影響を受けやすいだろう、と考えていました。ところが、25〜65歳の範囲では、年齢による違いは見られませんでした(p = 0.63)。

ほかに、年齢が上の人ほど課題のずれが大きいこと、学歴によって成績に差があること、14日間で少しずつ成績がよくなっていったこと(課題に慣れた分)も報告されています。

著者の考え

著者らは、「ストレスがかかりそう」と考えることや、それに備えようとすることが注意の力を使ってしまい、注意の要る課題の成績が落ちる、という説明(注意の消耗の仮説)に沿う結果だとしています。

そのうえで、考えられる道筋を3つ挙げています。

  1. 予想した日には実際にストレスが起きて、それが頭の働きに響いた → ただし、実際のストレスの数を差し引いても関係は残ったので、これだけでは説明できない
  2. 実際には何も起きなくても、ストレスのことを考えてしまい、注意がそちらに取られた
  3. ストレスに備えて先回りして対処したことで注意の力を使い、成績は落ちたが、そのぶん予想した出来事は防げた

どれなのかは、今回の研究では見分けられず、今後の研究を待つ、と書いています。

朝の予想だけが関係した理由については、朝の方が課題の時刻に近いこと、眠りが朝の予想と頭の働きの関係に関わっているかもしれないこと(睡眠不足や眠りの乱れは、起きたときの予期と結びつくという研究がある)、夜の予想はその日の気分に、朝の予想は寝起きの気分に左右されやすいこと、を挙げています。

論文の最後では、「ベッドの悪い側から起きる」という言い回しには一理ある、と書き、ストレスの多そうな日に的を絞ることで、その日の頭の働きの小さな乱れを和らげられるかもしれない、と結んでいます。

この研究のよいところ

  • 暮らしの中で、その場で測っている: 研究室の試験ではなく、普段の生活の中で、1日に何度もその場で記録しています。あとから思い出して答えるのと違い、記憶の偏りが入りにくい方法です。
  • 記憶を「本人の感じ方」ではなく課題で測っている: 「今日はもの忘れが多かった」という自己申告ではなく、スマートフォンの課題の成績で測っています。著者らによれば、暮らしの中のストレスの予期と、客観的に測った頭の働きを結びつけた研究は、知る限りこれが初めてです。
  • 同じ人の中で比べている: もともとストレスを感じやすい人と、そうでない人を比べたのではなく、一人ひとりの「いつもより高い日」と「低い日」を比べています。
  • さまざまな人たち: 名簿から確率的に選んだ、人種や経済的な状況がさまざまな地域の住民で調べています。
  • 答えた割合が高い: 2週間、1日7回の記録で、8割以上の記録がそろっています。
  • 企業の関わりがない: 公的な研究費と財団の支援で行われ、利益相反は報告されていません。

結果の受け止め方

  • 関係を見た研究: 朝の予想を研究者が変えたわけではありません。「朝の気分を変えれば、頭の働きがよくなる」ことまでは、この研究からは言えません。
  • 差は小さい: 10点満点の予想が1点高いごとに、課題のずれが0.017大きくなる、という大きさです。ずれの平均は1.82でした。著者らも、日々の「小さな乱れ(micro-impairment)」として扱っています。
  • 仕組みは調べていない: ストレスのことを考えていたのか、先回りして対処していたのか、ストレスホルモン(コルチゾール)がどう動いたのかは測っていない、と著者ら自身が書いています。
  • 眠りは分析に入っていない: 朝の記録では昨夜の眠りも聞いていますが、この論文の分析には使われていません。眠りが関わっている可能性は、著者らの考えとして書かれているだけです。
  • 年齢の範囲: 参加者は25〜65歳で、もっと年齢が上の人では違う結果になるかもしれない、と著者らは書いています。
  • 一つの地域の人たち: ニューヨーク市の一つの地域の住民で調べた結果です。

日常で取り入れるなら

  • 「今日はきつそう」と感じた朝は、自分に少しやさしく: そう感じた日は、その日一日、ちょっとしたミスが起きやすい日なのかもしれません。大事な確認は、いつもより丁寧にしておくと安心です。著者らは、ストレスを和らげる取り組みの今後の方向性として、ストレスの多そうな日に的を絞ることを挙げています(具体的な方法までは示していません)
  • 前の晩の心配は、翌日の成績とは関係していなかった: 夜に「明日は大変そう」と思っても、それ自体は次の日の課題の成績と結びついていませんでした。ただし、夜に考えておくのがよいのか悪いのかまでは、この研究からは分かりません
  • 寝起きの気分の土台は、やはり眠り: 著者らは、眠りが朝の予想と頭の働きの関係に関わっているかもしれない、と考えています。記事「運動と眠りと朝ごはんがあれば遺伝を超えられる!?「スッキリ起きれる朝」についての研究」でも、いつもより長く眠った夜の翌朝は、目覚めがよかったことを読みました

朝の気分を変えれば昼も良くなることを示した研究ではありませんが、朝は重たく暗い予感のする悲観的な事件や事故のニュースよりも、気持ちを明るくしてくれるようなかわいい動画や前向きな音楽を選ぶようにしてみるのも工夫なのかもしれません。

PR朝いちばんに耳に入る音を、好きな曲にしてみるのはいかがでしょう。Echo Spot は、好きな曲を目覚ましに設定できる、Alexa 搭載のアラームクロック。クリアなボーカルと深みのある低音のスピーカーに、時刻・天気・再生中の曲名が一目で分かる丸いディスプレイを組み合わせ、時計のデザインや色も好みに合わせて選べます。再生利用素材を36%使った作りです。Amazon Echo Spot(2024年発売)›リンク先は Amazon の商品ページです。Amazonのアソシエイトとして、眠りの和声は適格販売により収入を得ています。音楽の再生には、別途サービスの登録・契約が必要な場合があります。

今夜は、寝起きの気持ちを明るくしてくれるかもしれない朝の光を窓のない部屋にも届けようとする「青空の照明」を動画で紹介する予定です。

眠りの和声では、雨音や小川の音と、やさしい和音を流せる再生画面もご用意しています。

この記事は、論文の内容をもとに一般的な情報としてまとめたもので、医療上の助言ではありません。気分の落ち込みやもの忘れが続く場合は、医師にご相談ください。

この研究の著者・研究室・企業

  • 研究室Martin J. Sliwinski さん(論文の連絡先の著者。ペンシルベニア州立大学 健康な老い研究センター〔Center for Healthy Aging〕のセンター長で、人間発達・家族学の教授です)

参考文献

  1. Jinshil Hyun, Martin J. Sliwinski, Joshua M. Smyth. Waking Up on the Wrong Side of the Bed: The Effects of Stress Anticipation on Working Memory in Daily Life. The Journals of Gerontology: Series B 74(1): 38–46 (2019). doi:10.1093/geronb/gby042(PMC で全文公開)

← コラムの一覧へ